自由を取り戻す

レストランの中。

「ちっ、アオピエはかなり酷い目に遭ったな。抵抗もしないなんて、あの妊婦を殴った時の勢いはどこに行ったんだ？」

厳谷究（いわや　きわむ）はツイッターの動画を見ながら、端正な顔に嫌悪感を浮かべ、青木朝音が名目上の婚約者であるにもかかわらず、彼女に対する思いやりや同情の欠片もなかった。

比較的細心で落ち着いた人気俳優の村田雲平（むらた　うんぺい）は、異変に気づいていた。彼はその動画を何度も再生し、しばらく研究した後、表情がますます奇妙になっていった……

向井涼太はかなり無神経で、隣の空席を見て文句を言った。

「今日は日曜じゃないのか？君彦のやつはどこだ？また青木愛茉とデートか？」

「青木愛茉が新しい曲を作ったらしくて、彼女のピアノを聴きに行ったらしい」

厳谷究はスマホを脇に投げ、だらしなく椅子の背もたれに寄りかかり、黒い瞳を細めてのんびりと笑った。

「ったく、やっぱり色ボケの奴だな。でもまあ、青木愛茉のピアノは確かに悪くないけどな」

向井涼太は少し羨ましそうに言い、突然話題を変え、目を輝かせて興奮気味に言った——

「てかさ、俺ほんと最近思うんだけどさ――朝音、なんか変わったよな？」

向井涼太の頭の中は、この前朝音の傲慢で強気な姿でいっぱいで、あまりにもかっこよくて魅了されるほどだった。

彼女への呼び方も「アオピエ」から「朝音」に変わっていた。おそらく彼自身も気づいていなかっただろう。

「確かに違うな、ますますイケメン好きで能無しになった。それに臆病で、ただの役立たず」厳谷究は軽蔑して口をゆがめた。

「ふざけるな！」

向井涼太は反論した。「今日のあいつ、マジでやべーくらいカッコよかったんだって！あのふたりの女の服を脱がせて、上から目線で見下してるとことか、神だったぞ？よし、俺が再現してやる！」

「やめろや！やめろっつってんだろ！」

厳谷究は嫌悪感を示しながら彼を遮った。「そんなに気に入ったんなら、お前が付き合ってやれよ。そうすりゃ俺たちもやっと自由になれるしな。マジであの顔見るだけで食欲失せる」

「付き合ってやんよ！誰がビビってんだコラ！」

向井涼太は虚勢を張ったが、正直なところ、まだ彼女を追いかける勇気はなかった。

結局のところ、あの顔は確かに……あまりにも見苦しくて、耐えられなかった。

この言葉を聞いて、厳谷究と村田雲平はまるで地獄から解放されたかのように目を輝かせた。

すぐさま、厳谷究はピアノルームで青木愛茉のピアノを聴いている弟の厳谷君彦にメッセージを送った。

【いいニュースだ。俺たち解放されるぞ。涼太がアオピエを追いかけるって言ってる。うまくいったら、俺たちは引っ越せるんだ】

契約書にははっきりと書かれていた——

彼らの中で一人でも青木朝音と協定関係ではなく、本当の恋人関係になれば、残りの者はあの別荘から引っ越し、自由を得ることができる。

そうでなければ、青木朝音が無事に20歳の誕生日を迎えるまで、彼らは解放されない。

しかし青木朝音はまだ18歳で、あと2年も耐えなければならない。そんなことをしたら彼らは発狂してしまうだろう。

契約を破れば、一人につき百億円を青木朝音に賠償金として支払わなければならない。

百億円……くそ、強盗かよ！

さらに悪質なことに……この不平等な契約は、彼らの祖父が彼らのために署名したもので、彼らは仕方なく従うしかなかった。

だから、向井涼太が青木朝音を落としてくれれば、彼らは解放される。

急に泣きたくなった……

「涼太、俺たち兄弟分を代表して礼を言うぜ。頑張ってくれよ、アオピエはイケメン好きだから、口説くのは簡単だ。お前なら一発で落とせると信じてるよ」

厳谷究は爪楊枝を咥えながら立ち上がり、厳かに向井涼太の手を握った。

彼が兄弟たちを苦境から救うために立ち上がってくれたこの恩は、一生忘れないだろう。