第85章 忠犬の子犬

北川麟兎は母上様にじっと見つめられ、なぜか不安になり、緊張で手のひらも手の甲も汗ばんでいたが、視線を外すことができず、むしろ母上様にもっと自分を見てほしいと願っていた。

残念ながら、青木朝音は彼の願い通りにはならず、以前と同じように、数秒も経たないうちに視線を外し、隣の太めの女の子に目を向け、冷たくも美しい声で言った。「誰を選びたい?」

見知らぬ場所に来た後藤雪夜は、まだ少し緊張した様子で、彼女の袖を軽く引っ張り、弱々しく言った。「誰も選びたくないわ。あなたと一緒に座ってもいい?」

「いいよ」

青木朝音は愛情を込めて彼女の頭を撫でた。この一連の動作が、北川麟兎を完全に後藤雪夜に対して嫉妬と憎しみを抱かせ、同時に耐えられないほど悔しく思わせた。

母上様は自分の頭をまだ一度も撫でていないのに、あの太った女の子の頭を撫でるなんて、本当に腹が立つ。

「木村先生、私たちは誰も選びません。私と雪夜が一緒に座らせてください」と青木朝音は言った。

木村先生は少し頭を悩ませた。「これは...でもあなたたち二人の成績は...まあいいでしょう、二人で空いている席を見つけて座りなさい」

二人の落ちこぼれを同じ席に座らせるのは、初めての試みだった。

しかし彼女たちの様子を見ると、真面目に勉強するつもりはなさそうだったので、好きにさせるしかなかった。

「お前ら二人、後ろに行って座れ」北川麟兎は前の席の生徒の椅子を蹴り、甘く威圧的に命令した。

「はい、龍一兄さん」二人の男子生徒は彼を恐れているようで、すぐに尻尾を振るように最後列へと移動した。

そして今、教室全体で青木龍一の前の二つの席だけが空いていた。青木朝音は理由がわからず彼を一瞥し、仕方なく後藤雪夜と一緒に歩いて自分の席に座った。

青木朝音はちょうど麟兎の前に座ることになり、これは麟兎を非常に喜ばせた。同じ席にはなれなかったが、前後の席も悪くない。こうすれば毎日母上様の後ろ姿を眺めることができる。考えただけでうっとりした。

それに、小さな紙切れを渡すのも便利だろう...

思い立ったが吉日、麟兎はすぐにペンを取り、自己紹介を書いた小さな紙切れに頭をひねった。書いては直し、直しては書き、一時間かけてようやく完成させた。

「ドン」という音と共に、小さな紙切れが投げられ、ちょうど前の青木朝音の机の上に落ちた。