第18章 私と彼はありえない(8)

そう思いながら、林田雅子は思わず森川記憶を一瞥し、その眼差しには少し冷たさが宿っていた。

鈴木達は弁が立ち、食事の間、八割方の話は彼の口から出ていた。

彼の話題のほとんどは、髙橋綾人の高校時代の輝かしい功績を中心に展開していた。

話しているうちに、鈴木達は突然、自分と髙橋綾人の食事がもう終わりに近づいているのに連絡先をまだ交換していないことを思い出し、一晩中ほとんど話さなかった髙橋綾人に向かって言った。「綾人さん、忘れるところでした。まだ連絡先を交換していませんでした。WeChat持ってますか?友達追加しましょう。後で電話番号も送ります。」

髙橋綾人はスマホを取り出し、画面を数回タップして、鈴木達に渡した。

鈴木達はスマホを持ち、QRコードをスキャンした。

彼がスマホを髙橋綾人に返そうとしたとき、山崎絵里が弱々しく口を開いた。「高橋先輩、私もWeChatの友達追加してもいいですか?」

鈴木達は反射的に髙橋綾人を見た。男性が軽くうなずくのを見て、手のひらにあるスマホを山崎絵里に向けて差し出した。

山崎絵里は嬉しそうに立ち上がり、髙橋綾人のWeChatのQRコードをスキャンした。山田薄荷もそれを見て、髙橋綾人のWeChatの友達を追加した。林田雅子は髙橋綾人の電話番号を持っていたが、WeChatは追加していなかったので、スマホを取り出してスキャンした。

唯一、森川記憶だけが黙って頭を下げてお茶を飲んでいた。

鈴木達は皆が髙橋綾人のWeChatをスキャンしたのに、森川記憶だけが追加していないのを見て、何気なく彼女に尋ねた。「記憶ちゃん、綾人さんのWeChatを追加して連絡先を交換しないの?」

森川記憶のお茶を飲む動作が止まった。彼女は目を伏せたまま、カップの中の赤いお茶をしばらく見つめてから、顔を上げ、自然な表情で嘘をついた。「スマホを忘れてホテルの部屋に置いてきちゃったの。」

鈴木達は少し鈍感で、森川記憶がそう言うのを聞いても深く考えず、スマホを髙橋綾人に返しながら、自分が気になっていた別の話題に移った。「そういえば、なぜ皆さんは綾人さんのことを先輩と呼ぶんですか?もし私の記憶が間違っていなければ、綾人さんは映画大学の出身ではないですよね?」

森川記憶は自分のことが話題から外れたのを見て、再び目を伏せた。

彼女の目の端に髙橋綾人の顎が映った。彼女の見間違いかもしれないが、彼の顎はやや緊張して引き締まり、言い表せない冷たさが滲み出ていた。

「高橋先輩は私たちの映画大学の出身ですよ……」山田薄荷が答えた。

口に食べ物を詰め込んでいた山崎絵里が、うなずいて同意した。

林田雅子は柔らかい口調で山田薄荷の言葉を補完した。「……高橋お兄さんは監督学科で、私たちの演技学科とは別の専攻なんです。」

再びお茶を飲もうとしていた森川記憶は、林田雅子の言葉を聞いて、またカップを持ち上げる動作を止めた。

髙橋綾人は当時高校生の頃、名古屋で有名な学業優秀者で、全国高校入試のトップの成績で、一流大学と呼ばれる慶應義塾大学に入学したはずだ。今日に至るまで、彼はまだ名古屋の伝説だが、いつ専攻を変え、一流大学を捨て、映画大学に転校したのだろうか?

「綾人さん、間違いないですか?」鈴木達はとても信じられない話を聞いたかのように、うっかり手元の陶器の器をひっくり返し、声まで調子が狂った。「あなたは一流大学の栄光を捨て、素晴らしい将来を捨て、あなたの家族のビジネスを継がずに、映画大学に来たんですか?」

鈴木達の興奮に比べ、髙橋綾人はまだあの風のように軽やかで雲のように穏やかな様子で、ゆっくりとお茶を持ち、口元に運んでいた。まるで皆が話している人物が彼自身ではないかのように。