林田雅子が続けて言葉を吐き出そうとしていたが、突然それが消え去った。
これ、これは確かに彼女の声なのに、彼女はさっきこの言葉を言っていなかったはず……
同じように驚いていたのは山田薄荷と山崎絵里だった。
廊下は静かで、続いて聞こえてきた森川記憶の声がとても鮮明だった。「どうしたの?」
「生理が来ちゃって……」
林田雅子の声が再び響くと、皆ようやく我に返り、思わず森川記憶の手にある腕時計に目を向けた。
なんと、彼女たちがずっと単なる装飾品だと思っていたこの腕時計は、ただの時計ではなく、録音機能を備えていたのだ。
「……さっきから何か変だなと思って、水を買いに行ったんだけど、トイレに寄ったら本当に来てて、今月はなぜか何日も早く来ちゃって、全然準備してなかったし、温泉に入ったせいか量も多くて……」
林田雅子が森川記憶にこれらの話をしていた時、声をかなり低くしていたので、録音された音も小さかった。森川記憶が音量を最大にしても、いくつかの言葉はあまりはっきりと聞こえなかったが、聞き取れた部分から、腕時計から流れる林田雅子の声が何を伝えようとしていたのかは十分に理解できた。
林田雅子の顔色が徐々に青ざめていき、彼女は目の端で時々森川記憶の後ろにいる髙橋綾人を見やり、明らかに立っていられないような様子だった。
「……スーパーはフロントのある棟にあって、温泉や私たちの宿泊棟からちょっと遠いし、一泊だけだから替えのズボンも一枚しか持ってきてないし、行ったり来たりして服を汚すのも怖いから、記憶ちゃん、代わりに行って生理用ナプキンを買ってきてくれない?」
廊下の雰囲気は、録音から流れる林田雅子のこの言葉によって、一瞬で硬くなった。
山田薄荷と山崎絵里が前後して林田雅子を見た。
林田雅子の顔は青くなったり赤くなったりし、彼女は唇をきつく結び、手で服の襟をしっかりと掴み、その姿は現行犯で捕まった泥棒そのものだった。
録音はまだ続いていた。
廊下は恐ろしいほど静かだった。
「……これからすぐ部屋に戻って休むつもりだから、ホテルの部屋まで持ってきてくれる?……」
森川記憶の「うん、いいよ」という返事と共に、林田雅子はようやく自分が次に何を言ったのかを思い出し、彼女は感電したかのように全身を震わせ、森川記憶に向かって手を振り回しながら飛びかかった。「もういい!もう流さないで!」
彼女は叫びながら、手にしていたバッグを森川記憶の顔めがけて振り下ろした。
森川記憶は林田雅子が突然攻撃してくるとは思わず、全く警戒していなかったため、避ける暇もなかった。
バッグが彼女の顔に当たりそうになった瞬間、力強い手が彼女の腕をつかみ、素早く彼女を後ろに引っ張った。
バッグは森川記憶の頭をかすめ、ドアにぶつかって「バン」という音を立てた。
危機一髪だった森川記憶は、2秒ほど経ってようやく我に返った。
重要な瞬間に彼女を引き離したのは髙橋綾人だった。
彼女は髙橋綾人がなぜそうしたのかを考える余裕もなく、反射的に髙橋綾人の手のひらから自分の手を引き抜き、それから二歩前に進み、林田雅子の前に立った。