第36章 彼女に自分で出ていかせる（6）

「記憶ちゃん！記憶ちゃん！」あの馴染みのある声が、また耳元で響いた。先ほどの落ち着いた様子とはまったく違い、焦りと心配に満ちていて、声さえも明らかに震えていた。

森川記憶は、自分が幻覚を見ているのだと思った。あの男がこんな調子で彼女を呼ぶなんてあり得ないはずだ。

しかし、この幻覚はかなりリアルだった。彼女は幻覚の中で、あの男が手を伸ばして優しく自分の頬を叩いているのを感じた。まるで彼女を目覚めさせようとしているかのように…

森川記憶はまつ毛を震わせ、目を開こうとしたが、開く前に完全に意識を失ってしまった。意識が遠のく最後の一瞬、彼女はかすかに「白川先生ですか？すぐにこちらに来てください…」という言葉を聞いたような気がした。

-

森川記憶が再び目を覚ましたとき、彼女はもう冷たく暗い大通りにはおらず、暖かく柔らかな布団の中にいた。

彼女はベッドに横たわり、しばらく茫然としていたが、やがて頭上の天井が少し見慣れないものだと気づいた。目を動かしてみると、昨夜一人で四谷にラーメンを食べに行き、学校に戻る途中で突然腹痛を感じ、助けを求めて電話をしようとしたところで気を失ったことを思い出した…それで…今彼女はどこにいるのだろう？

森川記憶はそう考えると、突然布団を抱えて体を起こした。目に飛び込んできたのは、まったく見知らぬ環境だった。

ここは寝室のようだった。純粋な西洋風の装飾、白い床から天井までの大きな窓、ベージュの壁紙、洗練された優雅な家具。部屋全体が控えめながらも贅沢さを漂わせていた。

彼女は誰の家にいるのだろう？部屋の調度品を見る限り、持ち主はかなり裕福なようだ…森川記憶はそう考えながら、あたりを見回した。

部屋には二つのドアがあり、一つは閉まっていて、もう一つは開いていた。

開いているドアから中を覗くと、そこはクローゼットで、ディスプレイラックには整然と並んだ男性用の服が掛けられていた。

つまり、彼女は男性の家にいるということ？

森川記憶がそう考えていると、寝室のドアが開いた。彼女は反射的に音のする方を見た。

見知らぬ中年女性が静かに部屋に入ってきた。目覚めた森川記憶を見ると、足を止め、すぐに親しげに微笑んだ。「お嬢さん、お目覚めになりましたか？」