第37章 彼女に自分で出ていかせる(7)

森川記憶は突然立ち尽くした。彼女は髙橋綾人をしばらく見つめ、やっと頭がゆっくりと回り始めた。

昨夜、彼女を家に連れて帰ったのは……髙橋綾人?

つまり、昨夜意識を失う前に見た、幻覚だと思っていたものは、すべて本当だったの?

この考えが一瞬前に記憶の頭に浮かんだが、次の瞬間には迷いなく否定された。

昨夜意識を失う前に見た革靴は本物だったが、彼女が聞いた焦りを含んだ「記憶ちゃん」という声は、きっと幻聴だったに違いない。

考えるまでもなく、髙橋綾人が彼女のことを心配するはずがない。

森川記憶が考え事をしている間に、また足音が寝室に入ってきて、続いて井上ママの声が聞こえた。言葉は髙橋綾人に向けられ、非常に敬意を込めて「高橋さん」と呼びかけた。

森川記憶は井上ママの出現で我に返り、さっきまでドアのところに立っていた髙橋綾人がすでにベッドの側まで来ていることに気づいた。