第13章 私と彼はありえない（3）

父の声に合わせて、髙橋綾人は振り向き、こちらを見た。

二人の視線が、不意に衝突した。

森川記憶の指先が突然震え、次の瞬間、彼女は必死に自分を抑え、最も自然な態度で視線を父親に向けた。

父親は記憶が髙橋綾人が家にいることを不思議に思っていると考え、理由を説明した。「お母さんがね、数日前に偶然綾人くんに会って、彼も京都にいることを知ったんだ。以前、君が名古屋でおばあちゃんの家に住んで学校に通っていた時、髙橋おばさんにはずいぶんお世話になったからね。今日はちょうど私も帰ってきたから、綾人くんを家に招かないわけにはいかなかったよ。」

記憶は知っていた。父親が言う髙橋おばさんとは髙橋綾人の母親のことで、自分の母親の親しい友人だということを。

以前、彼女が名古屋で学校に通っていた時、祖母が高齢だったため、彼女の保護者会には髙橋綾人の母親が出席していた。

当時は彼女のおかげで、二つの家族の交流はとても密接だった。

その後、彼女が高校を卒業し、髙橋綾人の関係で急いで京都に戻り、さらにその後祖母が亡くなり、彼女の家族は名古屋に戻ることはなくなった。髙橋家との交流も、年末年始の挨拶程度になっていた。

長々と話した父親は、記憶がぼんやりと立ったまま髙橋綾人に挨拶もしないのを見て、少し責めるように言った。「記憶ちゃん、以前名古屋にいた時は、髙橋家によく遊びに行っていたじゃないか。それに、私の記憶が間違っていなければ、あなたと綾人くんは同級生だったよね。どうして今は挨拶もしないの？」

記憶は父親に自分と髙橋綾人の間に問題があることを気づかれたくなかった。心の中では千も万も不本意があったが、それでも父親の言葉が終わった後、冷静さを保ちながら、髙橋綾人に礼儀正しく声をかけた。「こんにちは、久しぶり。」

おそらく父親がいたせいか、髙橋綾人は彼女を無視せず、丁寧で礼儀正しい声で、彼特有の落ち着きを交えて答えた。「久しぶり。」

彼はこの後も彼女と世間話を続けなければならないことを恐れているかのように、挨拶を終えるとすぐに父親の方を向き、彼女が下りてくる前の話題を続けた。

二人はこれほど長い年月別れていたのだから、少し疎遠になるのも当然だ。父親はあまり気にせず、髙橋綾人の言葉に返事をして、彼との会話を続けた。

脇に置かれた森川記憶は、まぶたを少し下げ、リビングにこれ以上留まらず、キッチンへ行って母親を手伝い始めた。

野菜を洗いながら、記憶は突然思い出した。さっきの髙橋綾人との挨拶は、4年前の別れ以来、初めての会話だったかもしれない。

彼女は思った。もしここが彼女の家でなく、父親がいなければ、彼と彼女の間には最初の会話すらなかったかもしれない。

……

夕食時、母親が席を決め、記憶と髙橋綾人は並んで座ることになった。

二人はとても近くに座り、髙橋綾人の匂いが時々記憶の鼻に漂ってきて、彼女は非常にプレッシャーを感じ、箸を持つ手も少し落ち着かず、何度か料理をつまもうとしても、うまくいかなかった。

幸い、両親の注目は髙橋綾人に向けられており、彼と話すための話題を探しながら会話を続けていたので、彼女の動揺に気づく人はいなかった。

一食で、記憶はほぼすべての力を使い果たした。食事が終わると、彼女は家に一秒でも長く留まりたくなく、母親にクラスメイトに問題が起きて助けが必要だと嘘をつき、急いで家を出た。

マンションの入り口に着いたとき、記憶はタクシーを呼ぼうとして、急いで出てきたため上着と財布を持ってきていないことに気づいた。