第41章 見える場所(1)

森川記憶は表情を変えず、依然として髙橋綾人を見ようともせず、ただ少し力を入れて自分の手首を彼の手から引き離し、振り返ることなく歩き去った。

彼女の冷静さと無関心さに、髙橋綾人の胸の中の怒りは収まるどころか、さらに激しくなった。彼は目を閉じ、深呼吸をして胸の中の苛立ちを鎮めようとしたが、目を開けると、ベッドに置かれた一束のお金が目に入り、心はさらに詰まる思いになった。振り返ると、寝室の入り口から消えようとしている森川記憶の後ろ姿が見え、感情が再び制御を失い、井上ママに向かって怒鳴り始めた。「何をぼんやり立っているんだ?早く来て、寝室で彼女が触ったものを全部捨てろ!汚らわし...」

最後の「い」という言葉がまだ出てこないうちに、髙橋綾人は目の端で少女の姿がわずかに揺れるのをはっきりと見た。彼は突然口を閉じた。

井上ママは怖くて「はい」とも言えず、急いでベッドに駆け寄り、シーツや布団カバーを引き剥がし始めた。

髙橋綾人は暗い表情で寝室に立ち、下階からリビングのドアが開き、また閉まる音が聞こえるまで、急に向きを変えて寝室を出て、隣の書斎に入った。おそらく心の中の怒りがまだ収まらず、彼はドアを耳をつんざくほど強く閉めた。

書斎の机に座り、髙橋綾人はパソコンを開いたが、画面を見つめること2分もせずに、再びイライラしてパソコンを閉じた。

彼は椅子の背もたれに寄りかかり、目を閉じ、無表情で静かに座っていたが、突然体を起こし、携帯を手に取り、WeChatで少し探した後、最終的に山崎絵里の名前の上で指を止めた。彼はしばらく迷った後、結局山崎絵里の名前をタップし、彼女にメッセージを送った。

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森川記憶は髙橋綾人のマンションの敷地内をしばらくさまよった後、ようやく出口を見つけた。

敷地を出て、道端に立ち、タクシーを拾おうとしたとき、誰かが彼女を呼ぶ声が聞こえた。「記憶ちゃん?」

森川記憶は声のする方を見上げると、山崎絵里が通りの向かい側に立っているのが見えた。

……

昨夜、腹部がひどく痛んだため、森川記憶は今日は大丈夫だったが、油断はできず、山崎絵里と会って少し話した後、近くの病院に行くことにした。

山崎絵里はちょうど暇だったので、彼女が病院に行くと聞いて、親切に付き添ってくれた。

病院を出たときには、すでに午後4時だった。