第53章 黙れ(3)

森川記憶はエレベーターをしばらく見つめた後、ようやく振り返って地面に横たわる生気のない髙橋綾人を見た。彼女はまるで何か難しい選択に直面しているかのように長い間葛藤していた。エレベーターが誰も乗り込まないため再び閉まりかけた時、彼女は急に手を伸ばしてエレベーターを止めた。

エレベーターのドアが再び開き、彼女は歯を食いしばって中に入った。

彼女はまるで地面に横たわる髙橋綾人をもう一度見てしまうと気持ちが揺らいで決心が変わってしまうのを恐れるかのように、エレベーターの階数表示をじっと見つめ、必死に閉じるボタンを押し続けた。

エレベーターは下降し、1階に到着するとドアが開き、森川記憶は急いで飛び出した。髙橋綾人のいるマンションから逃げ出すと、ようやく深呼吸をして足を緩めた。

彼と彼女はもう関係がなかった。それどころか、彼にとっては彼女が二度と彼の前に現れないことを願っているのだから、彼がどうなろうと彼女には何の関係もなかった。

森川記憶はそう考えながら、激しく頭を振って、顔色の悪い床に倒れた髙橋綾人の姿を頭から振り払おうとした。

彼は言った、二度と彼の前に現れるなと。彼はまた言った、彼女の口から彼に関することを聞きたくないと。彼にそこまで嫌われ、屈辱を受けた後に、わざわざ彼の前に現れる必要はなかった...しかし一昨日の夜、彼女が腹痛で路上で倒れた時、彼女を拾って家に連れて帰ったのは彼だった...

マンションの出口へと急いでいた森川記憶の足が突然止まった。

彼女は唇を固く結び、真っ直ぐ前方の道を見つめ、手を強く握りしめた。

山崎絵里から聞いた話では、林田雅子と髙橋綾人は彼女が知っていたような恋人関係ではなかった。つまり、あの日彼が彼女を家に連れて帰ったのは、林田雅子の代わりに謝るためではなかった...本当の理由は何なのか、彼女には分からなかったし、深く考えたくもなかったが、結局彼に恩を受けたことには変わりなかった...

そう思うと、森川記憶は強く唾を飲み込み、結局振り返って髙橋綾人のいるマンションへと戻ることにした。