「兄さん、今回帰ってきたのは、お願いがあるからなんだ。」
彼に返ってきたのは、ただ吹き抜ける夜風だけだった。
「兄さん、僕の頼みを聞いてくれるよね?」髙橋綾人は身をかがめ、髙橋余光の墓石に向かって一礼した。しばらくして、彼はようやく体を起こした。「ありがとう、兄さん。」
彼の口調は、厳かで真剣だった。言い終えると、彼は墓石の前にしばらく立ち尽くしてから、ようやく身を翻して歩き去った。
車に戻ると、髙橋綾人はゆっくりとアクセルを踏み、髙橋家の私設墓地を離れ、名古屋の中心部へと向かった。
高速道路沿いの街灯が次々と後方へ流れていき、まるで時間が逆流しているかのように、思考はもう一度高校三年生の頃へと戻っていった。
……
あの仲直りの後、彼と森川記憶の間に対立は二度と起こらなかった。