それは髙橋綾人が森川記憶を知って二年余りの間で、初めて彼女と一緒に下校して帰る日だった。
髙橋綾人が午後に竹田章を捕まえて学校のグラウンドで森川記憶に土下座して謝らせたことが、髙橋余光の耳に入り、髙橋綾人と森川記憶が小区に入るとすぐに、髙橋家の門前で待っていた髙橋余光を見かけた。
髙橋綾人と並んで歩いていた森川記憶は、足早に髙橋余光の前に駆け寄り、澄んだ声で呼びかけた。「余光お兄さん」
髙橋余光は森川記憶に軽く微笑み、手を伸ばして彼女のカバンを受け取り、それから髙橋綾人を見た。彼は筆談ボードを持っておらず、ただ髙橋綾人に後ろの髙橋家を指さした。
髙橋綾人は、兄の意図が「中で話そう」ということを理解し、軽く頷いて、大股で二歩前に進み、髙橋余光の手から森川記憶のカバンを取った。「兄さん、僕がやります」