第80章 私が懐かしむのは、共に過ごした若き日々(10)

髙橋綾人はタバコの吸い殻をゴミ箱に捨て、しばらくその場に立っていた後、車のドアを開けて乗り込んだ。

彼は慣れた手つきで車を運転し、自分の住まいに向かって走り出した。途中で突然、車を路肩に停め、スマホを取り出してナビを開き、「名古屋」と入力した。ルートを設定し終えると、再びアクセルを踏み、前方の交差点で曲がり、高速道路の入口へと猛スピードで向かった。

髙橋綾人は日が暮れてから夜明けまで、そして正午になってようやく名古屋の高速料金所に到着した。

高速料金を支払い、スマホのナビを切ると、髙橋綾人は慣れた道のりで名古屋の市内へと向かった。

彼はまず髙橋家に戻った。家族は誰も彼が帰ってくることを知らず、家政婦以外は誰もいなかった。

家政婦は彼を見て非常に喜び、彼の周りを取り巻きながら次々と声をかけた。「坊ちゃま、急に戻ってこられたんですね?お腹はすいていませんか?何か食べますか?ご両親に電話しましょうか?坊ちゃまが帰ってきたと知ったらきっと喜ばれますよ…」

そう言いながら、家政婦はリビングの固定電話を手に取った。彼女がダイヤルを押す前に、髙橋綾人が口を開いた。「必要ないよ。これからまた用事があって出かけるから」

少し間を置いて、髙橋綾人はさらに言った。「あなたは自分の仕事をしていて、私のことは気にしなくていい」

家政婦は「はい」と答えた。

髙橋綾人はそれ以上何も言わず、そのまま階段を上がった。

寝室に戻ると、まずシャワーを浴び、それからベッドに横になって仮眠をとった。目が覚めたときには既に午後4時になっていた。髙橋綾人はウォークインクローゼットから真っ黒な服を選んで着ると、車の鍵と財布を持って出かけた。

マンションを出た髙橋綾人は、まず近くの花屋に立ち寄り、丁寧に花束を選んで支払いを済ませた。次に隣のスーパーでビールを数本買い、それらを車のトランクに入れてから、再び車を走らせて名古屋郊外へと向かった。

約45分ほど走った後、髙橋綾人は髙橋家の私有墓地に入った。

墓地の管理人は髙橋綾人を知っていて、下ろされた運転席の窓越しに彼を見ると、すぐに大門を開け、挨拶をした。「坊ちゃま、いらっしゃいましたね」

髙橋綾人は軽く頷き、ゆっくりと墓地内に車を進め、駐車場に停めた。そしてトランクを開け、花束とビールを手に取り、墓地の奥へと歩いていった。