森川記憶の姿が地下鉄の駅の入り口から消えてから長い時間が経ち、髙橋綾人はようやく視線を戻し、車を再び発進させて家に帰った。
井上ママは物音を聞くとすぐに駆けつけ、彼を見るとにこやかに口を開いた。「高橋さん、お帰りなさいませ?」
髙橋綾人は軽くうなずいただけで、何も言わず、かがんで靴を脱いだ。
「高橋さん、何か食べますか?」井上ママはまた尋ねた。
靴を脱ぎ終え、髙橋綾人は体を起こしてから、井上ママに向かって首を横に振り、階段を上がった。
寝室に戻ると、髙橋綾人はソファの上に無造作に置いてある名古屋から持ち帰った髙橋余光の遺品を一目で見つけた。服、筆記板、携帯電話、腕時計……
髙橋綾人はそれらを見ているうちに、胸が苦しくなってきた。彼は床から天井まである窓のところに行き、窓を開けた。