第92章 百回の「ごめんなさい」（2）

それは七夕の日のことだった。森川記憶は午後5時に、机に伏して眠っていた髙橋綾人のところへ駆け寄り、「ねえ、話があるんだけど」と声をかけた。

学校全体で、髙橋綾人の睡眠を邪魔する勇気がある人は、おそらく森川記憶だけだった。髙橋綾人は起床時の機嫌が非常に悪かったが、森川記憶に起こされても少しも怒らず、朦朧とした目を開けて「どうした？」と尋ねた。

「今夜、学校の裏の小さな森に来てくれる？」

そのシンプルな一言で、髙橋綾人の心臓は鼓動を二拍飛ばした。彼は大変な努力をして感情を抑え、「ああ」と答えた。

森川記憶は彼が承諾したのを見て、身を翻した。彼女のポニーテールが動きに合わせて、美しく誇り高い弧を描いた。

髙橋綾人は夜の自習に出ず、デブを引き連れて授業をさぼり、ショッピングモールへ行った。新しい服を一式買って着替え、美容院に行ってヘアスタイルも整え、早々に小さな森へ行って待っていた。

10時になってようやく誰かがゆっくりとやって来たが、それは森川記憶ではなく、彼女の友達の千歌だった。

つまり、彼女が午後に来たのは、千歌の代わりに彼を小さな森に呼び出すためだったのか？

あなたが愛する女の子が、あなたと別の女性との出会いをセッティングしようとしている、そんな気持ちがどれほど辛いか分かるだろうか？

森川記憶が何をしても彼は我慢できたが、唯一これだけは耐えられなかった。彼の表情はその場で冷たく恐ろしいものになった。彼は特別におしゃれをして花のように着飾った千歌に一瞥もくれず、そのまま立ち去った。

彼は小さな森の外で、待っていた森川記憶に出くわした。

森川記憶は彼がこんなに早く出てきたのを見て、「どうしてそんなに早く帰るの？」と尋ねた。

彼女がこう尋ねなければよかったのに、この質問が彼の怒りに火をつけた。彼は考えることなく、森川記憶に向かって「お前、頭おかしいんじゃないの！」と言い放った。

言い終わると、彼は森川記憶を見ることもなく、そのまま颯爽と立ち去った。

それは彼と彼女が親しくなってから、初めて一緒に下校しなかった日だった。

その後長い間、髙橋家で彼女に会っても、学校で彼女とすれ違っても、彼は森川記憶を無視し続けた。