第73章 私が懐かしむのは、共に過ごした若き日々(3)

まだ早い時間で、バーには人があまりおらず、男性の歌手がギターを抱えて歌っている以外は、他に音はなかった。

髙橋綾人と森川記憶の二人は、このように背中合わせに座って、どれくらい経ったのか分からないほど時間が過ぎ、男性の歌手は女性の歌手に変わっていた。

女性歌手の声はとても良く、マイクに向かって、柔らかく情感豊かな声で音を試した後、歌い始めた。それは懐かしい曲だった。

彼女が「私が懐かしむのは何でも話せたこと、私が懐かしむのは一緒に夢を見たこと、私が懐かしむのは喧嘩した後でもあなたを愛したいという衝動」と歌ったとき、髙橋綾人は振り返り、背後の森川記憶を見つめた。

少女は歌を聴いているようでもあり、また自分の思考に沈んで何かを考えているようでもあった。ろうそくの光が彼女の元々完璧な輪郭をさらに美しく照らし出していた。彼女の静かな姿から、髙橋綾人はかすかに懐古の香りを感じ取った。