第73章 私が懐かしむのは、共に過ごした若き日々(3)

まだ早い時間で、バーには人があまりおらず、男性の歌手がギターを抱えて歌っている以外は、他に音はなかった。

髙橋綾人と森川記憶の二人は、このように背中合わせに座って、どれくらい経ったのか分からないほど時間が過ぎ、男性の歌手は女性の歌手に変わっていた。

女性歌手の声はとても良く、マイクに向かって、柔らかく情感豊かな声で音を試した後、歌い始めた。それは懐かしい曲だった。

彼女が「私が懐かしむのは何でも話せたこと、私が懐かしむのは一緒に夢を見たこと、私が懐かしむのは喧嘩した後でもあなたを愛したいという衝動」と歌ったとき、髙橋綾人は振り返り、背後の森川記憶を見つめた。

少女は歌を聴いているようでもあり、また自分の思考に沈んで何かを考えているようでもあった。ろうそくの光が彼女の元々完璧な輪郭をさらに美しく照らし出していた。彼女の静かな姿から、髙橋綾人はかすかに懐古の香りを感じ取った。

彼女は何かを思い出したり、懐かしんだりしているのだろうか?彼女が最も懐かしむ記憶は何だろう?そして彼が最も懐かしむ記憶は何だろう?

髙橋綾人の思考は、一瞬遠くへ飛んだ。しばらくして、彼の頭の中に、ゆっくりと自分の答えが浮かんできた。「私が懐かしむのは、一緒に若かった日々だ。」

彼が懐かしむのは、彼と彼女、そして彼がともに若かった時間だった。

あの時間は、彼の人生の中で最も比類のない時間だった。

「私が懐かしむのは何でも話せたこと、私が懐かしむのは一緒に夢を見たこと、私が懐かしむのは…」この柔らかな歌詞が再び耳に響く中、彼は森川記憶から視線を戻し、ゆっくりと目の前のテーブルのろうそくに目を落とした。揺れる炎が彼の目を照らし、時間が一瞬にして遠い遠い過去に逆流したように感じた。

……

髙橋綾人には長い反抗期があった。彼の反抗期は「非凡さ」を表現するためでもなく、かっこつけるためでもなく、兄の髙橋余光が原因だった。

兄と言っても、髙橋余光は彼よりたった1分早く生まれただけだった。

彼と髙橋余光は一卵性双生児で、まったく同じ顔をしていた。他人どころか、両親でさえ、服装などの外見的な要素に頼らなければ、二人を見分けるのは難しかった。

二人とも同じく髙橋家の子供だったが、運命は全く異なっていた。