第150章 彼について、彼女が知らない物語(10)

「林田雅子だけじゃなく、私だって、あの時あなたたちの寮の入り口に立っていて、あの光景を見て、本当に怖かったわ。もし林田雅子があなたの居場所を言わなかったら、彼は本当にその場で彼女を階段から突き落としていたと思う!」

髙橋綾人はあの日、彼女の居場所を知るために、林田雅子を階段から突き落としそうになったの?

森川記憶は箸を持つ指先が突然震え、思考が少し朦朧としてきた。

「でもあの日、髙橋綾人は怖かったけど、やっぱりかっこよかったわ!愛する人のために怒りを爆発させるなんて!小説の中でしか見られないようなシーンが、あなたの身に実際に起こったなんて...」女子学生は再び森川記憶の隣に座り、彼女の腕をつかんで揺さぶり始めた。「...記憶、私本当にあなたが羨ましいわ...」

森川記憶は女子学生に揺さぶられて我に返り、視線を先ほど固定していた場所から戻し、彼女の方を向いて軽く微笑んだが、何も言わなかった。

女子学生は頭を森川記憶の肩に寄せ、髙橋綾人があの日どれだけかっこよかったかについて羨ましそうに話し続けた後、ようやく自分がここで多くの時間を無駄にしていることに気づき、森川記憶に別れを告げて、トレイを持って立ち去った。

周りが再び静かになり、森川記憶は頭を下げ、黙って丼飯を二口食べたが、すぐに動きを止めた。箸を握ったまま、トレイの中の食事を見つめて再び考え事をし始めた。

一杯の丼飯を、森川記憶は五分の一も食べないうちに箸を置いた。

彼女は頭を下げたまま、片手でスマホを持ち、『三千の狂い』のウェイボーを閲覧しながら、静かに山崎絵里の食事に付き合った。

山崎絵里が食べ終わると、二人は一緒に食堂を出て、森川記憶はようやく口を開いた。「絵里、ちょっと用事があるから、先に寮に帰っていいよ」

山崎絵里は「わかった」と答え、森川記憶と別れた。

森川記憶は山崎絵里が遠ざかるのを見送ってから、学校のグラウンドに向かって歩き出した。人気のない小さな林の中に座り、スマホを取り出して、ウェイボーを開いて『三千の狂い』の最新情報をチェックしようとしたところ、スマホに着信があった。しばらく連絡を取っていなかった鈴木達からだった。

以前と同様に、鈴木達は電話をかけてきて、山田薄荷に会うために、彼女の寮のメンバーを食事に誘おうと提案した。