第177章 億万の星も彼女には及ばない（7）

「えっ？」電話の向こうの秘書は、髙橋綾人の返事に一瞬戸惑い、しばらくしてから、何かを確認するように、彼が先ほど断言した言葉を疑問文に変えて繰り返した。「お断りするんですか？」

髙橋綾人は無関心に「うん」と返事をした。

「社長、最近ずっと『三千の狂い』の投資のことで頭を悩ませていたじゃないですか？さらに、お持ちの株をすべて現金化するようにと指示され、今のお住まいも売却しようとしていますよね！今、林田社長の投資を受け入れれば、すべての問題が解決するのに。林田社長の元々の投資額は2億で、20%増えたということは4000万、つまり林田社長は私たちに2億4000万を投資してくれるということですよ……」

「それがどうした？」秘書の長い話に対して、髙橋綾人はさらりと返した。

どういう意味で「それがどうした」なのか？

これは天から降ってきた幸運じゃないですか。元の投資が戻ってくるだけでなく、さらに4000万も増える。4000万といえば一線級俳優の出演料に相当する額で、後期制作にかなりの資金を追加投入できるのに……

秘書はこの四文字に詰まり、しばらく言葉が出なかった。かなり経ってから、やっと口を開いた。「社長……」

秘書は自分が考えていたことをすべて髙橋綾人に説明しようとしたが、二言しか言わないうちに、電話の向こうの髙橋綾人は淡々とした口調でまた声を出した。「私の言った通りにしてくれ」

彼は疲れているようで、声色に疲労感が混じっていたが、それでも秘書は強い圧迫感を感じた。彼女はこれ以上説得しようとはせず、小さな声で言った。「はい、社長」

髙橋綾人は黙り、何か深い思考に沈んでいるかのように、携帯に向かって長い間無言だった。そしてようやく唇を動かして声を出した。「彼が自分から投資を引き上げたとしても、最初から彼が投資を引き上げなかったとしても、私は彼に投資を引き上げさせていただろう！」