「私たちの学校の向かいの火鍋店よ」ルームメイトは言い終わると、少し離れた教室棟を指さした。「綾人さん、私は先に出席して教科書を受け取りに行くね。後で火鍋店で会おう」
髙橋綾人は軽く頷いただけで、何も言わなかった。
ルームメイトが去った後、彼はしばらくその場に立っていてから、ようやく歩き出し、車に戻って、ドアを開けて座った。
車のドアを閉め、窓を上げると、車内は一気に静かになった。
髙橋綾人は目を伏せ、目の前のハンドルを見つめながら、森川記憶が山崎絵里に言った言葉が耳に響いた。「あなたは嫌いな人を好きになることがある?」
「冗談じゃないわ。彼に心惹かれるくらいなら、私を殺してくれた方がマシよ」
実際、彼は心の中でよく分かっていた。彼女の心の中に自分の居場所はない。もしあったなら、なぜ兄の立場を借りて彼女に近づく必要があっただろうか?
しかし彼女の口から直接、自分が彼女の心にないという言葉を聞いたとき、彼はその悲しみに耐えられないほどだった。
彼は知っていた。これは彼女のせいではない。フォーシーズンズホテルであの夜、彼は怒りに任せて行き過ぎたのだ。しかし彼の心は、彼女の言葉によって、ズキズキと痛みを感じていた。
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寮に戻ると、山田薄荷は電話を受けた。クラス委員長からだった。
クラス委員長と山田薄荷は同郷で、二人は高校時代からの同級生で、関係はとても良好だった。電話をかけてきたのは、今夜山田薄荷が彼らの寮と一緒に食事会をするかどうか尋ねるためだった。
山田薄荷は森川記憶と山崎絵里のことを考えて、少し躊躇した。おそらくクラス委員長が一緒に来るような話をしたのだろう。食事にありつけると分かった山田薄荷は、すぐに笑顔で電話を切り、森川記憶と山崎絵里に急いで準備するよう声をかけ、みんなで食事にありつきに行くことにした。
食事会の場所は、10回の集まりのうち8回は必ず行く学校の向かいの火鍋店で、映画大学の学生たちからは「第二食堂」と呼ばれていた。
今日は入学の日で、ほぼ学校全体の学生が食事会に出かけていた。森川記憶たち3人が到着したとき、火鍋店の1階はすでに満席だった。
3人は1階を一周見て回ったが、クラス委員長たちを見つけられなかった。山田薄荷が電話をかけようと携帯を取り出したとき、階段のところにクラス委員長の姿が現れた。「薄荷」