第303章 私たちは昔に戻れますか?(3)

田中白は愛想よく四人に向かって微笑みながら「ありがとう」と言い、森川記憶の指先から奪ったグラスを通りかかったウェイターのトレイに置くと、記憶に向かって「行きましょう」と言って、率先して大きな窓の前のソファセットへと歩き出した。

森川記憶は本当に髙橋綾人が自分に話があると思い、四人に謝るような微笑みを向けてから、急いで歩き出し、田中白に追いついた。

道中、多くの人が会話を中断し、田中白と森川記憶に挨拶を送ってきた。

記憶は田中白が足を止めないのを見て、自分も立ち止まらず、田中白と同じように、挨拶してくる人々に微笑み返したり、軽く頷いたりした。

窓際のソファセットに近づくと、記憶はようやく、ソファに座っているのが髙橋綾人だけでなく、菅生知海もいることに気づいた。

二人はおそらく仕事の話をしていたようで、ソファの間に置かれたテーブルには書類が二部置かれていた。

ソファの前まで来ると、田中白は髙橋綾人と菅生知海の会話がどこまで進んでいるかを気にせず、すぐに口を開いた。「高橋社長、森川さんが来ました」

会話を中断された髙橋綾人は、少しも不機嫌な様子もなく、振り向いて森川記憶を一瞥すると、田中白には構わず、彼女に向かって目の前のソファを指さして「座れ」と言った。

彼と菅生知海が仕事の話をしているところに、自分が横に座るのはあまり良くないのでは?

記憶は少し戸惑い、無意識に振り返って田中白を見た。彼が軽く頷くのを見てから、ようやく足を動かし、髙橋綾人が指したソファに座った。

髙橋綾人は記憶にそれ以上話しかけず、視線を田中白に移した。彼はただ目配せをしただけで、田中白はまるで彼の意図を理解したかのように、その場を離れた。

菅生知海と森川記憶はお互いに微笑みを交わした後、彼は髙橋綾人と先ほどの話題を続けた。

記憶は髙橋綾人が自分を呼んだ理由がわからなかったが、礼儀と教養から、できるだけ静かにして、目の前で仕事の話をしている二人の男性の邪魔をしないようにした。

約5分ほど経ったとき、田中白が戻ってきた。後ろにはシェフの制服を着た中年の男性がついていた。

髙橋綾人は足音を聞いたようで、田中白が歩いてくる方向を一瞥しながらも、菅生知海との会話を続けていた。