第314章 『方圓数里』（4）

高橋綾人の瞳は、森川記憶をまるで静かな大海原に引き込むようだった。周囲の熱烈な歓声や拍手も、彼女には全く聞こえなかった。この瞬間、彼女は自分がどこにいるのかも、さっき何が起きたのかも忘れてしまった。ただ彼女は、じっと高橋綾人の瞳を見つめ返し、その視界には彼女と彼の二人だけがいて、他には何も映っていなかった。

彼の眼差しは、星空のように広大で、澄み切った完璧な瞳の奥に深い意味を秘めていた。透き通るような光を放ち、まるで不思議な魔力を持つかのように、彼女を誘い込んでいた。彼女は制御不能で、抵抗できずに、彼の瞳の奥へと深く沈んでいき、まるで彼の心の世界に入り込んだかのようだった。

彼女の呼吸も、鼓動も、すべて消え去り、全身を流れる血液さえもこの瞬間に静止したようだった。

彼女は明らかに、息を止めすぎて胸が苦しくなっているのを感じたが、それでも呼吸ができなかった。

誰かが耳元で話しかけているような気がしたが、彼女には全く聞こえなかった。

この時、彼女の生命の中で唯一のことは、彼を見つめること、ただ彼を見つめることだけだった。

森川記憶が息を止めすぎて気を失いそうになった時、誰かに腕を強く引っ張られた。まるで急所を突かれたかのように動けなかった彼女の体が、激しく揺さぶられた。

彼女の視線は彼から離れ、大画面に映し出されたMVPの映像が目に飛び込んできて、少し意識が戻ってきた。そして山崎絵里の興奮した叫び声が聞こえた。「記憶ちゃん、かっこいい！高橋先輩、すごくかっこいい！私、もうメロメロよ！！」

そう言いながら山崎絵里は森川記憶を抱きしめ、頭を彼女の肩に乗せ、まるで子猫のように甘えて擦り寄り、「にゃんにゃん」と声を出していた。

森川記憶は全身に震えが走り、完全に我に返った。

彼女はようやく、自分が高橋綾人とあんなに長い間見つめ合っていたことに気づいた……

無意識のうちに視線を高橋綾人の顔に向けると、彼の測り知れない瞳はまだ彼女をじっと見つめていた。