第307章 私たちは昔に戻れますか?(7)

奇妙だな……髙橋綾人と菅生知海は仕事の話を終えたのに、彼はまだそこに立って見張りのようにしているのは何のためだろう?

森川記憶が不思議に思っていると、撮影クルーの女優二人がグラスを持って彼女の座っている方向に向かって歩いてきた。

彼女たちが田中白の近くまで来たとき、スマホを見ていた田中白は顔を上げて二人を一瞥し、彼女たちの指先に持たれたグラスに視線を止めた。「すみません、あなたたちは……」

少し距離があったうえ、田中白の声も小さかったので、森川記憶は彼の言葉をはっきりとは聞き取れなかった。ただ彼の唇が少し動いたのを見ただけだった。

すると二人の女優は立ち止まり、田中白の言葉に返答した。

そのうちの一人は生まれつき声が大きく、森川記憶は彼女の口から自分の名前がはっきりと聞こえた。