第328章 コーラちゃんは誰？（8）

しばらくして、デブは少し顔を横に向け、森川記憶を見つめ、何か言おうとして口を開いたが、声が出なかった。最後に唾を一口強く飲み込んで、やっと声を絞り出した。「ごめん、さっきは感情的になりすぎた」

森川記憶はその声を聞いて、まぶたを上げ、デブを一瞥したが、何も言わなかった。

部屋の中は再び静寂に包まれた。

デブは何かにイライラしているようで、酒杯を手に取り、一気に酒を飲み干し、そして酒杯を強く置いた。テーブルを見つめながら2秒ほど黙って、何かを考えているようだった。しばらくして、彼は頭を傾けて森川記憶を見て、少しかすれた声で話し始めた。「記憶ちゃん、もし綾人さんがあなたに申し訳ないことをしたなら、綾人さんの代わりに謝るよ。でも信じてほしい、綾人さんは悪い人じゃない…」

ここまで言って、デブの声には確信が込められていた。「彼は間違いなく、私、清水寒がこの人生で出会った中で、世界で最も素晴らしい人だ…」

先ほどデブに4年前の出来事を持ち出されたせいで、森川記憶の感情はまだ完全に落ち着いていなかったが、デブの言葉を聞いて、心の中で少し驚いた。

髙橋綾人についての評価で、彼女が最もよく聞いたのは、彼がハンサムで、お金持ちで、出身が良く、能力が高いということだった。悪い面では、彼が冷淡で、薄情で、名古屋の暴れん坊だということだった…デブの言う「世界で最も素晴らしい人」というのは、彼女が初めて聞く評価だった。

デブは少し酔っていたが、意識ははっきりしていた。森川記憶は何も言わなかったが、彼は彼女の顔に浮かんだ驚きをはっきりと捉えていた。彼は酒瓶を手に取り、酒杯に注ぐのではなく、直接口に流し込んだ。「俺の言うことを信じないのか？」

「でもね、知ってるか？俺は幼稚園の頃から綾人さんを知ってるんだ。小学校の頃の綾人さんは優等生で、どの先生も彼の名前を出すと褒めちぎっていた。彼はまさに親が言う『他人の家の子供』の典型だったんだ」

「俺は子供の頃からすごく太っていて、クラスメイトは俺と遊びたがらず、からかうのが好きだった。唯一綾人さんだけが俺を嫌わなかった。ある時、上級生に囲まれて笑われていた時、綾人さんが出てきて俺を守ってくれた。あの時から、俺は決めたんだ、この人生、綾人さんの言うことは何でも従おうって」

「綾人さんは小学校卒業試験で市内1位だった…」