第399章 目覚めた翌日(9)

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映画祭が終わり、すでに夜の10時になっていた。

髙橋綾人は数十もの集まりの誘いを丁重に断り、会場を後にするとすぐに車に乗り込み、携帯電話を取り出して森川記憶に電話をかけ始めた。

午後にかけた電話と同様、依然として電源が切られている状態だった。

前方で運転している田中白は、バックミラー越しに、髙橋綾人が二度目に携帯を耳に当てるのを見た。

聞くまでもなく、田中白にも分かっていた。髙橋綾人が森川記憶に電話をかけているのだと。

髙橋綾人が午後に目覚めてから、彼はずっと側にいた。夜に映画祭に参加する時も、彼は多くの応酬の中で、時々携帯を取り出して操作し、時には他人が話しかけても、しばらくして反応し、一言返すこともあった。

誰よりも彼は理解していた。森川さんが無断で去ったことで、彼の心は誰よりも苦しんでいることを。本来なら笑顔を見せることもできないはずなのに、映画祭で出会う一人一人の挨拶に対して、彼は微笑みを返し、そして挨拶が終わった瞬間、彼の目尻には言い表せない暗さが漏れ出ていた。