第411章 なるほど、ときめきだったのね (1)

髙橋綾人は何も言わず、茶碗を手に取り、一口飲んでから、目を伏せて赤い茶を少し見つめた後、茶碗を置き、顔を上げて森川記憶を見つめて言った。「記憶」

森川記憶はその声を聞き、まぶたを上げて髙橋綾人を見た。

風呂上がりの男性は、目元が清潔で、髪の毛はなめらかで、まるで絵から抜け出してきたような美しく繊細な人だった。

森川記憶はしばらくぼんやりと見つめた後、やっと軽く「うん」と返事をした。

髙橋綾人はすぐには話し始めず、どう切り出すか考えているようだった。約10秒後、彼の美しい唇が動き始めた。「東京であの夜起きたことは、僕が悪かった...」

森川記憶は髙橋綾人が自分と話したいのはきっとあの夜のことだと分かっていたが、彼がこんなに無駄話もなく本題に入るとは思っていなかった。彼女の指先が軽く震えたが、彼の話がまだ終わっていないことを知っていたので、黙っていた。