そう思うと、夏野暖香の顔に幸せの表情が浮かんだ。
しかし突然、彼女の目が輝いた。
そうだ、教会!
「運転手さん、教会へ行ってください!」
「お嬢様……ここには七、八つの教会がありますが、どこへ行きたいですか?」
「郊外に一番近い教会に……一番質素な教会へ行ってください!」
タクシー運転手は振り返り、少し疑わしげに夏野暖香を見た。
「それはかなり遠いですよ。おそらく二時間ほどかかります!」
「構いません、そこへ行きましょう!」夏野暖香は断固として言った。
……
車が少し古びた教会の前に停まった時、すでに夜の9時を過ぎていた。
夏野暖香は車代を払って降りると、教会の入り口の灯りがまだついているのが見えた。
教会の周りには雑草が生い茂り、遠くは真っ暗だった。
ここには、この教会だけがあり、少し陰気に見えた。
夏野暖香は思わず恐怖を感じた。
最終的に、勇気を出して前に進み、灯りの下で「ギシッ」という音と共に教会の大きな扉を押し開けた。
これは100平方メートルに満たない小さな教会だった。
中には一つの灯りがともされ、前方の十字架は特に厳かで神聖に見えた。
夏野暖香の心臓は激しく鼓動していた。
そして彼女の視線が十字架の下に立つ高く細長い影に落ちた時、全身の血が引いていくような感覚に襲われた。
「こんな遅くに誰かが来るとは思わなかった」橋本健太の声は、ひどくかすれていた。
夏野暖香は心臓が一瞬で痛み、息ができなくなるような感覚に襲われた。
橋本健太が顔を上げると、彼が手に酒瓶を持っていることに彼女は気づいた。
彼は頭を後ろに傾け、酒を喉に流し込んだ。
夏野暖香の心は震えた。
しばらくして、橋本健太はゆっくりと振り返った。
深く暗い目が少しずつ夏野暖香の姿に落ちていった。
彼女だと分かった時、彼の目に奇妙な光が走り、視線が微かに揺れた。
しかしすぐに、その光は鏡の中の花や水に映る月のように、消えてしまった。
「君か?」彼のかすれた声には、明らかな信じられないという感情が含まれていた。
「私よ」夏野暖香はうなずき、必死に自分を抑えて取り乱さないようにした。
橋本健太は彼女に微笑んだ。
そして振り返り、酒を飲み続けながら、体はゆっくりと倒れていった。
夏野暖香は急いで前に出て彼を支えた。
二人一緒に床に倒れた。