第125章 【125】彼女のために薬を塗る2

すべては、あんなにも滑稽だった。

恥ずかしさにせよ、悔しさにせよ、結局は起きてしまったことだ。

彼女は突然、橋本健太が自分が七々だと知らないことに安堵した。

もし知っていたら、彼は自分に失望し切ってしまうのではないだろうか?

これでいいのだ。

人生は、遺憾があるからこそ美しい。

もし、あの時彼女が本当に橋本健太を見つけていたのに、橋本健太がすでに彼女のことを忘れていたとしたら。

そうなったら彼女は本当に泣いてしまうだろう。

こうであれば、少なくとも心の中で幻想を抱くことができる。

幻想の中で、彼は昔の七々を忘れていない。

彼が今彼女を知らないのは、ただ彼女が別の夏野暖香の顔を持っているからだ。

彼女は首を振った。

南条陽凌は彼女を医師のオフィスに抱えて連れて行った。

医師は彼女の傷を新しく包帯で巻き直し、薬も塗った。

包帯を剥がす時、夏野暖香は痛みで眉をひそめた。

南条陽凌は彼女の側に立ち、突然手を伸ばして彼女の手を握った。

「ちょっと我慢して」彼は珍しく、非常に優しい口調で言った。

夏野暖香は少し驚いた。

頭上から視線が彼女を見つめているのを感じた。

彼の手のひらはとても大きく、彼女の手を強引に握っていた。

まるで彼女の手をしっかりと握りしめれば、彼女が痛みを感じなくなるかのように。

夏野暖香の唇の端に皮肉な笑みが浮かんだ。

彼はいつも自分のやり方で、自分が正しいと思うことをする習慣がある。

それが彼女が最も嫌うところだった。

特に場所を選ばずに彼女にあんなことをすること。

本当に彼女を不快にさせる。

彼は南条家の後継者で、幼い頃から注目を浴びて育った。

我が道を行くことに慣れ、自分が一番であることに慣れ、また自分のやり方で物事を進めることにも慣れていた。

はっきり言えば、あまりにも自己中心的で、自分勝手なのだ。

もし南條漠真だったら、絶対に彼女を尊重し、どうやって本当に人を大切にするかを知っているだろう。

橋本健太のことを考えると、夏野暖香は胸が痛くなった。

彼女は手を心臓の位置に当て、薬を塗る時、痛みが襲ってきた。

一瞬で、彼女は涙を流した。

橋本健太が先ほど彼女を見たあの視線を思い出した。

一瞬のことだったが、その視線は針の先のように彼女の心臓を刺した。