第130章 【130】案台に倒れる1

南条陽凌は笑顔で山下婉を見ていたが、その瞳孔には冷たさが満ちていた。

興奮していた山下婉は、もちろんそれに気づいていなかった。

「いいよ。君のことを覚えておくよ」南条陽凌は笑いながら言った。

「はい、あ...ありがとうございます、皇太子様!ありがとうございます!」山下婉は興奮のあまり何も言えなくなった。

夏野暖香の顔はまだ火照っていたが、それは心の中の怒りに比べれば大したことではなかった。

あの女が彼女の顔を腫れあがるほど殴ったのに、南条陽凌はそんな彼女を褒めるなんて。

明らかに彼女に敵対しているのではないか?

これからは、誰でも彼女を踏みつけにできるということか?

案の定、南条陽凌が去った後。

山下婉はさらに得意げになった。

通常、撮影中は皆同じ弁当を食べる。

スタッフが全員に配るのだ。

夏野暖香も例外ではなかった。

ただ、今回彼女に弁当を渡したのは山下婉だった。

「暖香ちゃん、今日皇太子様に褒められたのは、あなたのおかげよ。さっき木下さんが弁当を持ってきたから、代わりに持ってきたわ。それと、これはあなたのコーヒー」

山下婉はそう言いながら、弁当とコーヒーを夏野暖香の前に置いた。

「ありがとう、婉姉さん」夏野暖香は作り笑いで言った。

「どういたしまして」山下婉は艶やかに微笑み、言い終わると高慢に背を向けて去っていった。

夏野暖香は一人で隅に座り、弁当の蓋を開けて食事をしようとした。

弁当の蓋を開けた瞬間、夏野暖香は驚いて叫び声を上げ、手にしていた弁当を床に投げ捨てた。

見ると、普通の弁当の中に十数匹の虫が這い回っていた。

びっしりと這い回り、吐き気を催すほどだった。

夏野暖香は大いに驚き、後ろに一歩下がったところで椅子に小脚をぶつけ、床に倒れた。

遠くにいた人々は音を聞いたが、お互いに顔を見合わせるだけで、誰も近づいてこなかった。

関口月子だけが手にしていた弁当を置き、暖香に向かって駆け寄った。

「大丈夫?」彼女は夏野暖香を助け起こしながら尋ねた。

弁当から這い出してくる虫を見て、思わず気持ち悪くなって口を押さえた。

夏野暖香は顔色が青ざめて首を横に振った。

「大丈夫」

関口月子は突然夏野暖香から手を離し、振り返って山下婉の前に駆け寄った。