「あぁ……どうして一週間に一度しかりんごを食べられないの!」七々は落胆した表情で言った。「じゃあ、皮ごと食べちゃおうかな……」
「ダメだよ、施設のりんごは農薬がかかってるから、毒になるよ!ほら、むいたよ!」
七々は南條漠真が丁寧にむいてくれたりんごを嬉しそうに受け取り、「カリッ」と一口かじった。
「甘い……!あなたも食べて……」七々はもぐもぐしながら言い、りんごを南條漠真の口元に差し出した。
「僕はさっき食べたよ」南條漠真は首を振った。実は、当時の福祉施設の状況はあまり良くなく、果物の季節でもなかったため、施設長から配られるりんごは二人で一つ分けて食べるものだった。しかし、南條漠真はいつも暖香ちゃんに、一人一個ずつで、自分のはもう食べたと言っていた。
そうすれば、暖香ちゃんは何の気兼ねもなく一人で大きなりんごを楽しく食べられるからだ。
七々は女の子で、小さい頃から体が弱かった。彼は男の子だから、果物を食べなくても構わないと思っていた。
「南條漠真、一人で隠れて食べたの?七々と一緒に食べてくれなかったの!」七々は口を尖らせ、不満そうな顔で言った。
「ごめん、次は絶対一緒に食べようね!」
「ダメ、今回も一緒に食べなきゃ!南條漠真、一口だけでもいいから食べて!」
南條漠真は仕方なく、目に何かが閃き、りんごを受け取ると小さなナイフを取り出し、りんごの反対側に爪ほどの小さなハート型を彫った。
そしてそのハート型のりんごの部分を取り出して言った。「このハートは、七々がくれたものだよ!」
七々は口を手で覆い、驚きの声を上げた。「わぁ、すごいね!七々からのハート、きっとすごく甘いでしょ!」
「もちろん、七々のハートは、食べるのがもったいないくらいだよ!」
「ダメ、こんなに甘いハートは、南條漠真お兄ちゃんが絶対に食べなきゃ。七々は南條漠真にだけ食べてほしいの!」七々は急いで言った。
こうして、南條漠真は七々の目の前で、その小さなハート型のりんごを食べた。
少女は嬉しそうに笑い、それから残りのりんごを全部食べた。
今でも、橋本健太はあの時の感覚を忘れることができない。
あの「ハート」は本当に甘くて甘くて、記憶の中で彼が食べた中で最も美味しいりんごだった。
今思い出しても、味蕾が花々が咲き誇るように感じる。