第583章 意味不明な感覚

夏野正南は急いで言った。「これは橋本家のことではありません。すべて記者が適当に書いたものです……橋本さんがそう言ってくださるなんて、本当に感謝しています。」

夏野暖香は傍らでお茶を注ぎながら、二人の会話を聞いていると、うっかりお湯を手にこぼしてしまった。

彼女は驚いて叫び、湯飲みを落とした。

橋本健太はすぐに駆け寄り、彼女の手を取った。「大丈夫ですか？」

夏野暖香は橋本健太の行動に驚き、橋本健太も何かに気づいたように、急いで彼女の手を離した。

彼女は俯いて言った。「洗面所で少し冷やしてきます……」そう言うと、急いで部屋を飛び出した。

洗面所に着くと、夏野暖香は蛇口の下で手を冷やした。

頭の中は混乱していた。

たった今、彼女の頭に奇妙な考えが浮かび、一瞬にして雷に打たれたような感覚に襲われた。

かつて孤児院で、熱湯で火傷した時、南條漠真も同じように彼女の手を掴み、蛇口の下で冷やしてくれたのだ。

彼の心配そうな眼差しは、さっきのと本当によく似ていた。

もしかして……もしかして橋本健太は何か思い出したのだろうか？彼は何かを知っているのだろうか？

「お嬢様、もう使い終わりましたか？」後ろから女性の声がして、夏野暖香はようやく我に返った。自分がかなり長い間ここにいたことに気づき、他の人も蛇口を使いたがっていた。

「終わりました……すみません。」彼女は洗面所を出て、少しぼんやりとした様子だった。

病室に戻ると、橋本健太はちょうど帰ろうとしていた。

夏野の母は彼女を見て言った。「暖香ちゃん、ちょうどいいわ。健太さんを見送ってあげて。」

夏野暖香は母親の笑顔と橋本健太の見つめる目を見て、ぼんやりと頷いた。

「はい……」

彼女は橋本健太とともにエレベーターへ向かった。

エレベーターは人でいっぱいで、階ごとに何人かが乗り込んできた。みな病院に来た人たちで、一人は顔中に赤い発疹があり、変な匂いがしていた。夏野暖香は端に立っていたが、その人が入ってくるとずっとこちらに押してきた。

彼女が眉をひそめると、橋本健太は彼女を一瞥し、一歩前に出て、体で彼女の肩を包み込むように、彼女を自分の側に引き寄せた。