橋本健太は微笑んで、顔を上げ、空き部屋はあるかと尋ねた。
フロントの女性の目に一瞬戸惑いが浮かんだが、すぐに職業的で標準的な笑顔を浮かべ、残念そうに首を振った。
「どうしよう……」夏野暖香は下唇を噛んだ。彼女と南條漠真が……ハネムーンスイートに泊まるわけにはいかないでしょう?以前聞いたことがあるけど、こういう部屋には、カップル向けの特別なアダルトグッズがたくさんあるんだって。
二人でそこに泊まったら、気まずくて死んでしまうんじゃない?
結局、彼らはやっと再会したばかりで、以前、南條漠真は兄のように彼女の面倒を見ていた。何年も会わなかった間に、彼らは大人になった。もし突然このように「親密に」一緒に住むことになったら、あまりにも唐突すぎる気がして……
しかし意外にも、橋本健太はフロントに向き直り、微笑みながら言った。「この部屋で結構です。」
そう言うと、彼はルームキーを取り、堂々と彼女の手を取り、係員について中へ入っていった。
彼の手は大きく、掌は温かく、しっかりと力強く彼女の手を握っていた。それによって彼女の心の不安も消えていくようだった。
彼の後ろについて歩きながら、彼女は子供の頃を思い出した。まるで自分がまだあの小さな少女で、南條漠真の後ろをついて走り回っていた少女のような気がした。
彼の心の中では、彼女はいつも小さな少女のままなのかもしれない!
夏野暖香は甘く考えた。
部屋はとても広く、オーシャンビューだった。入るとすぐに遠くの海が見える。室内の設備も完璧で、ソファ、エアコン、冷蔵庫、テレビ、クローゼット……寝室はとても居心地が良く、超特大のベッドがあり、ベッドの上にはバラの花びらでハート型が作られ、空気中にはかすかなバラの香りが漂っていた。
夏野暖香はそのベッドを見つめながら、なぜか突然、意地悪く笑う美しい顔が頭に浮かんだ。前回NGグループの小島で、彼女と南条陽凌も似たような部屋で、親密にひとつのベッドで寝たことを思い出した。
彼女は少し眉をひそめ、頭の中からその人を追い出そうとした。そのとき、背後から足音が聞こえ、彼女が我に返ると、後ろから一対の腕が彼女をしっかりと抱きしめていた。
彼女の全身がびくっと震え、橋本健太が後ろから彼女の耳たぶに軽くキスをし、低い声で言った。「七々……ここは気に入った?」