三日後のA市は、前例のない盛大な婚約パーティーの舞台となった。
あの氷川財団の舵取り役と二冠女優の婚約パーティーだから、主役だけでも十分に華やかだ。このパーティーには国内外のビジネス界の名士だけでなく、多くのスターたちも集まってきた。もはやどんな授賞式にも劣らないほど豪華なパーティーとなった。
マスコミもこの話を知る次第、一斉に早くから会場に詰めかけ、一分でも遅れれば大ヒット記事を逃してしまうのではないかと恐れていた。
高級車、芝生、シャンパン、バラ、そして流れるバイオリンの音色の中、会場のあらゆる隅までロマンチックな雰囲気に包まれている。そしてこの会場で最も目を引いたのは、このパーティーの主役たちだ。
今日は彼らの晴れの日であり、まだ始まっていないにもかかわらず、彼らは幼馴染たちに囲まれた。冗談を言う者もいれば、祝福を送る者もいて、とても賑やかだ。
しかし、今回の鈴木隆弘は、その輪に加わらなかった。彼はただ一人で、少し離れた位置に立ち、目の前で起こっていることをじっと見つめただけ。
給仕からシャンパンを受け取ると、一気に飲み干した。
すると彼は眉をしかめた。今日の酒はなぜこんなに不味いのだろう?
式が終わったと気が付くまで、彼はシャンパンを一杯一杯と、自分がどれだけ飲んだのか分からないくらい飲み続けた。その後、氷川泉の声が背後から聞こえてきた。
「ここで一人で隠れていたのか」
鈴木隆弘の瞳の色がわずかに変わり、振り向いた瞬間には、いつもの不真面目な表情に変わっていた。「あんたが忙しそうだから、僕に構ってる暇もないだろう。だから僕はこの静かなところで、のんびりしてるだけさ」
「よく分かってるな」
「僕は空気読みが上手だからな」鈴木隆弘は彼が一人で来たのを見て、思わず尋ねた。「どうしてあんただけで来た?将来の奥さんは?」
氷川泉は少し離れたところにいる人の群れを指さした。「彼女はしばらく抜け出せないようだ」
「婚約者のあんたが、彼女を助けに行かないのか?」
「知ってるだろう、芸能界のことには、俺は一切関わらないんだ」
「冷たいな」
「鈴木様ほど冷たくはないさ。前回、どこかの若手女優がお前のために自殺しかけたとき、お前はまばたきひとつしなかっただろう」
「お互いの必要を満たしただけさ。そもそもあの自殺騒ぎは、僕という人間のためではなく、僕の金のためだし」鈴木隆弘はゆっくりとワイングラスを揺らしながら、真剣な口調に変わった。「もし本当に僕のために命を捨てる覚悟のある女がいたら、僕だって心を動かされるさ」
「ほう?」
「あんただったら、そんな女に心が動かされないのか?」
「しないさ」
「はっ、だから林薫織があんなに惨めな目に遭ったんだな」氷川泉の眉がわずかに寄るのを見て、鈴木隆弘は先ほどの不真面目な態度を改め、沈んだ声で言った。「僕は数日前、林薫織に会ったんだ」
男の顔色がわずかに変わり、すぐに冷たい声で聞いた。「俺に関係があるのか?」
「今頃の彼女がどうしているのか、知りたくないのか?」氷川泉の反応を待たずに、彼は顔を曇らせて答えた。「彼女は最悪な生活を送っている。とても最悪だ」
「彼女がどう過ごしていても、俺には関係ない」男は眉を軽く上げ、鈴木隆弘を横目で見て、皮肉な笑みを浮かべた。「なんだ?笑顔の閻魔様と呼ばれたお前にも、同情心が溢れ出したのか?」
「僕に同情心?僕はただ見ていられないだけだ。あの時…」
「あの時は彼女の自業自得だ」氷川泉は冷たい声で彼の言葉を遮った。
「あの時、彼女確かに少し度を越していたが、代償が大きすぎたんじゃないか」
鈴木隆弘は氷川泉の顔色が徐々に険しくなっていくのを見て、自分が少し言い過ぎたことに気付いた。なにせよ、今夜は氷川泉と禾木瑛香の婚約パーティーなのだ。このタイミングで林薫織の話を持ち出すのはよくないことだ。
彼は口を開きかけたが、結局何も言わなかった。しかし、ナイトカラーでの林薫織の苦境を思い出すと、彼の心は複雑な気持ちになった。あの子は以前、彼をからかって歯がゆい思いをさせたが、結局のところ、彼らが彼女に借りを作ってしまった。