ポールダンス

鈴木隆弘に会った数日後も、林薫織は二つのことを心配してきた。あの夜の出来事で唐橋若様の恨みを買い、仕返しされるのではないかと恐れ、もう一つは鈴木隆弘が彼女との再会を、氷川泉に話すことだ。

当時離婚した際、氷川泉はひどい言葉を残した。彼女がA市のどこにも足場を築けないようにしてやると。そして彼はその言葉を実行した。当時はどの会社も彼女を雇おうとせず、皿洗いや給仕の仕事さえ見つけることができなかった。

その時、彼女はようやく気づいた。自分の元夫がどれほど「恐ろしい」存在だったのかを。彼は誰かを潰そうと思えば、指一本動かすだけで、その人を破滅させることができる男だ。

氷川泉が望めば、彼の手はT市にまで伸び、彼女がT市で生きていくことさえ許さないだろう。彼女はこの事に対し、一切の疑いもない。

だが予想外のことに、彼女が心配していたことはどれも起こらなかった。唐橋若様は彼女に会うと、以前の横柄な態度さえ大きく変わり、彼女に頭を下げるようになった。

氷川泉も彼女を探しに来なかった。

彼女はついこんな自分のことを笑いたくなった。自意識過剰だったのね?あれほど長い年月が経ち、氷川泉はおそらく彼女のことなど完全に忘れているだろう。そんな彼がわざわざ彼女を潰すために、ここまでも気を使う理由はあるのか?

時間は少しずつ過ぎ去り、あっという間に四半期末となった。借り家の契約期間がもうすぐ切れ、更新が必要になった。

林薫織は銀行口座を確認しながら、心の中で計算してみた。母親の医療費を除いても、残高はちょうど今月の家賃を払うのに足りるだけだ。

しかし、契約更新の時期が近づくと、大家は家賃の値上げを要求してきた。

「木村さん、最初は毎月三万円という約束だったじゃないですか。どうしてこんな時で家賃を上げるんですか?」

「林さん、別に困らせたいわけじゃないけど、私だって食べていかなきゃならないでしょう。今時の物価が日に日に上がっているのよ。私が値上げしなければ、どうやって生活していけるの?」

「ええと…木村さん、それは分かりますけど、少し値上げ幅を抑えてもらえませんか?私の経済状況はご存知だと思いますが、給料のほとんどは母の治療費に使っています。毎月四万円はさすがに負担できない金額です!」

「わかったわかった、四千円を引して三万六千円にするわ。三万六千円は私にとってもそれ以上譲れない値段よ」

「ありがとうございます!本当にありがとう!」

契約書にサインをして、バスに乗り込んだ林薫織は、心が疲れ果てているのを感じた。

家賃は上がり、物価も上がり、医療費ならもっと膨大な数字だ。彼女は自分の能力に限界があることを、ますます実感してきた。

林薫織がナイトカラーに着くと、更衣室で星野に出会った。彼女が足を引きずりながら誰かに支えられて入ってくるのを見て、林薫織はすぐに助けに駆け寄った。

「どうしたの?」

「階段を降りるときにうっかり足を捻ってしまったの。どうしよう、この後はダンスに入るのに!」

彼女の足首がひどく腫れているのを見て、一人のウェイターが眉をひそめた。「そんな状態でダンスするのか?足が持たないぞ?」

「じゃあどうすればいいの?マネージャーの性格を知らないわけじゃないでしょう。私の代わりを見つけられなければ、私を待ち受けるのは地獄だけよ!」星野の視線が林薫織に止めたとき、突然輝いた。「ね、薫織、あなたは確か、ポールダンスできるよね?私の代わりにやってくれない?」

林薫織がポールダンスをした話は、もともと勘違いから始まった。当時の忘年会で、林薫織はたくさんのお酒を飲まされた。

誰も想像しなかったことに、いつも内向的で静かだった林薫織は、酒癖がとても悪い。彼女が酔うと、おしゃべりになるわけでもなく、暴れるわけでもなく、ぐっすり眠るわけでもなく、なんとポールダンスを踊ってしまう。

しかし、林薫織のポールダンスは実にプロに見えるということは、認めざるを得ないことだ。

「私?」林薫織は驚いて目を見開き、急いで首を振った。「無理よ、私には無理!」

「なんで無理なの?あなた上手に踊れるじゃない」星野はせっかく掴んで命の綱を簡単に手放すつもりはない。「薫織、今回だけは助けて、お願い!ねえ、お願い!」