街灯が灯り始めた頃、黒いフェラーリが「ナイトカラー」の屋外駐車場に入ってきた。運転手が車から降り、後部座席のドアを開けると、スーツを着た非常にハンサムな男性が車から降りてきた。
「社長、こちらです」
氷川泉は顔を上げて目の前のヨーロッパ風の建物を見つめると、その建物の前に書かれた看板に目を落とした。彼は目を少し細め、唇の端から冷笑を漏らした。
目の前の建物がどれほど豪華に装飾されていようとも、彼は一目でここがどんな場所か見抜くことができた。どうせ権力と金、あるいは金と色の取引が行われる場所に過ぎない。
クラブの外は明るく照らされ、郊外にあるかのように静かだが、中に入ると全く別の光景が待ち受けている。
妖しい照明の中、耳をつんざくような音楽の中、ダンスフロアにいる男たちの視線はすべて遠くのステージに集中している。そこでは、黒いボディースーツを着た女性が必死にパフォーマンスを繰り広げている。
その女性は背が高くスリムで、黒いボディースーツが彼女の体にぴったりと包み込み、きれいな肉体を際立たせた。彼女の全身で露出しているのは白くて柔らかそうな腰の一部だけだが、この半分隠れた隙間のせいで、より一層人々の欲望をかき立てた。
お尻を持ち上げ、腰を振ってから引き締める。光と影の幻影の中で、彼女の表情は冷淡のままだ。まるで世界全体が彼女を動かすことができないかのように見える。しかし、そんな彼女は却って、男たちの目には麻薬のように映り、致命的な魅力を放っている。
ステージの下からは時折男たちの口笛が聞こえる。彼らの目は釘付けになり、眼球が飛び出しそうになっている。
「この子は誰だ?前に見たことないぞ?」
「たぶん新人だろう。でもなかなかの上玉だ、俺の好みだ!ただ、指名できるかどうかわからないが…」
「ここでは、指名できないダンサーなんていないぞ?今は高飛車に構えていても、結局は以前の女たちと変わらない。女というのは靴のようなものだ、早かれ遅かれ自分の主人ができて、履かれるものさ!」
…
男たちはステージ上で踊っている女性を羨望の眼差しで見つめている。頭の中で妄想を膨らませる者もいれば、携帯を取り出してステージ上の光景を録画する者もいた。中には古代の遊郭のように、財布から金を取り出し、ステージに向かって投げる者までいた。
一万円札が一枚また一枚と女性の足元に落ちていく中、彼女の動きが一瞬止まったかと思うと、すぐに何事もなかったかのように踊り続けた。
氷川泉は目の前で起こっているすべてを冷ややかに観察している。その端正な顔は朦朧とした光と影の中で明暗を繰り返し、漆黒の瞳は底知れぬほど深く見え、そんな彼の感情を読み取ることは難しそうだ。
贺集は彼の側に立ち、慎重に社長の表情の変化を見つめている。しばらくして、ついに勇気を出して口を開いた。「社長、ステージ上のあの方は…」
彼の言葉が終わる前に、氷川泉が冷たい視線を向けてくるのが見えた。
鋭い眼光が顔を撫でるように通り過ぎ、贺集はすぐに黙り込んだ。彼でさえステージ上の人物が誰なのか分かったのに、社長が気付けないわけはあるのか?
元妻がナイトクラブで顔を晒し、しかも大勢の前で艶やかなダンスを踊っている。誰であろうと、面子が立たないだろう。ましてや彼の社長ほど、顔の広い人物だ。
しかし、鈴木様の話によると、若奥様、いや、元若奥様がここでやっている仕事は、キャバ嬢だけだったはずだ。どうして突然ボールダンサーになったのだろう?
この状況を、どう善処するのだろうか?
その瞬間、彼は社長の冷たい声が聞こえた。「今夜ここで撮られた写真と動画は、誰一人も、ここから持ち出してはならない」
「なに?」贺集は困惑し、その後驚いて目を見開いた。「社長、こ…ここにはこんなに大勢の人がいますよ。全員の携帯から写真や動画を削除するのは、難しいかもしれません」
贺集は社長の元妻がナイトクラブでホールダンスを踊る写真がネットに上がれば、どのような波紋を広げるかをよく理解している。しかし、ここに来る客人も金持ちか権力者ばかりだ。社長は本当に彼にとんでもない難題を出してしまったな?
男は彼に淡々と横目を向け、薄い唇を開いて言った。「お前が難しいと思うなら、お前の代わりにできる人は、いくらでもいるぞ」