鈴木隆弘は口を開きかけたが、彼女を引き止める理由が思いつかなかった。
かつて林薫織の父親を破滅させた件に、彼も関わっていた。当時、氷川泉が林薫織をどこまで追い詰めたか、彼はもちろん知っている。あの頃は、すべても林薫織の自業自得であり、少しの同情も値しないと思っていた。その後、林薫織が去ると、彼もあの件を徐々に忘れていったが、ここで林薫織に出会うとは思ってもみなかった。
かつての高慢だったお嬢様が、今ではクラブで人の顔色を窺いながら生きている。虐げられ、辱められても、ただ耐え忍ぶだけ。彼女はまるで別人のように、傲慢さや横柄さを脱ぎ捨て、冷たい人形のように、用心深く、塵のように底辺の存在に変わった。
なぜか、彼女の痩せた背中を見ると、心から憐れみが湧いてきた。
この日も、林薫織は不眠に悩まされた。
目を閉じると、過去の出来事が映画のように、次々と彼女の脳裏に浮かんできた。
鈴木隆弘との出会いは、表面上は平静を装っていたが、内心はそうではなかった。徐々に癒えつつあった傷が、鈴木隆弘の出現により、また皮膚ごと引き裂かれ、彼女の心を痛めた。
彼女は苦しみながら目を閉じ、鈴木隆弘の出現が偶然であることを、そして彼がT市で彼女を見かけたことも、あの人に伝えないことを願った。
……
鈴木隆弘はT市に三日間滞在し、仕事の合間に、林薫織のこの数年間のT市での生活について調査させた。
「鈴木社長、例の資料はこちらです」
「ありがとう、ご苦労だったな」
鈴木隆弘は机の上の分厚い資料を手に取り、その中の衝撃的な写真のページに目を通すと、思わず眉をひそめた。
しばらくして、彼は資料を重々しく投げ出し、視線を机の上の招待状に移し、表情が重くなった。
「林薫織よ、あれほどのものを犠牲にして、それだけの価値があるのか?後悔しないのか?」
後悔しないのか?
これは林薫織が何度も自分に聞いてきた質問だ。あんな風に氷川泉に拘り、彼に愛することに本当に価値があるのかと。
今振り返ると、価値があるかどうかなど関係なく、ただの運命だったのだ。
彼女は当然恨んだり怨んだりしていたが、結局は全てが自分の過ちだった。自分の高慢さ、自分の執念が今日の状況を招いたのだ。
すべても、他人のせいではない。
鈴木隆弘の出現は、湖に落ちた石のようだった。彼女の心の湖に波紋を広げたが、時間の経過とともに、徐々に静けさを取り戻した。
おそらく生活に角が取れ、無感覚になったのだろう。氷川泉と禾木瑛香が三日後に婚約を結ぶという話を聞いても、彼女は平静のままだ。
テレビ画面に、記憶の中のあの端正な顔がはっきりと映し出された。三年の歳月は彼の顔に少しの痕跡も残さず、むしろ大人の男性の魅力を増していた。
彼が禾木瑛香の手を取り、各メディアで自分たちの結婚を発表した時、その顔と目には愛と優しさが満ちていた。その眼差しは、彼女に向けられたことは一度もなかった。
林薫織は硬く口角を引き上げた。かつてあれほど愛した人が他の女性との結婚を迎えている。以前の自分なら、おそらく生きる気力を失うほど苦しんだだろう。しかし今は……
彼女は自分の心臓の位置に手を当てた。そこは凍った湖のように静かで、少しの波も立たなかった。
かつての傷は確かに、皮膚ごと引き裂かれるほど深かった。だがあれは驚くべき速さで癒えた。再び拡げられても、もはやそれほど痛くはなくなった。
氷川泉と禾木瑛香は何年も付き合ってきたし、結婚を発表するのは当然のことだ。正確に言えば、三年前の時は、とっくに結婚すべきだったのだ。