林薫織はホテルに戻り、辞表を書き上げ、松根の電話をかけた。
「松根さん、今ホテルにいらっしゃいますか?」
「あいにく、ちょうど出かけたところなんですが、何かありましたか?」
林薫織は携帯を握る指を少し強く握りしめ、結局口を開いた。「松根さん、辞表はもう書き終えました。お時間があるときに、お渡ししましょうか?」
「輝矢があなたの雇い主です。辞表は直接彼に渡した方がいいでしょう」
藤原輝矢の林薫織に対する態度を、松根は知らないわけではなかった。この件で彼女が決断を下せば、後で藤原輝矢に説明するのが難しくなるだろう。だから林薫織が直接辞表を藤原輝矢に渡し、彼の思いを断ち切る必要があった。
しかし、賢明な松根でさえ、一つのことを見落としていた——彼女は林薫織が藤原輝矢の心の中でどれほどの重みを持っているかを過小評価していたのだ。