電話を切った時、林薫織の顔から安堵の表情が消え、心に暗い影が覆いかぶさった。さっき彼女は藤原輝矢に嘘をついて、実は藤原の母が彼女を訪ねてきたことを告げなかった。
藤原の母が去る時の表情を思い出し、林薫織はこの件がこれで終わるとは素直に思えなかった。彼女の予想は的中し、すぐに藤原輝矢の家族が再び彼女を訪ねてきた。ただし今回は礼儀正しく接するのではなく、彼女を直接車に「拉致」したのだった。
朝食を済ませた後、林薫織は再びセイント病院へ向かった。彼女は自分の努力で木村泉の家族を説得し、林の母を救うことに同意してもらいたいと願っていたが、結果は思わしくなく、再び何の成果も得られずに戻ってきた。
セイント病院を後にする時、林薫織は少し落ち込んでいた。どうすれば木村泉の家族の心を動かすことができるのだろうか?
彼女は考え事に没頭していたため、後ろからずっと軍緑色のジープが彼女を追跡していることに気づかなかった。突然、そのジープから背筋がピンと伸びた大柄な男性たちが降りてきた。林薫織は足音を聞いて反射的に振り向いたが、夜の暗さで彼らの姿はよく見えなかった。しかし、何となく来者が善意ではないという感覚があった。
セイント病院は郊外に位置し、人や車の往来は少なく、夜になるとさらに人影もまばらだった。林薫織は様子がおかしいと感じ、すぐに逃げ出そうとしたが、一歩遅かった。
次の瞬間、彼女の鼻と口はハンカチで覆われた。彼女は必死にもがいたが、視界はどんどん曇り、やがて意識を失った。
……
東川秘書から電話がかかってきた時、氷川泉はパーティーに出席し、重要なビジネスパートナーと商談をしていた。
「申し訳ありません、少し席を外します」氷川泉は比較的静かな隅に移動し、通話ボタンを押して冷たく言った。「重要な用件であることを願うよ」
「氷川社長、大変です!林さんが誘拐されました!」
男の瞳孔が急に縮んだ。「どういうことだ?」
「先ほど病院の看護師が、林さんが数人の男に無理やりジープに連れ込まれるのを目撃しました」
「ナンバープレートは確認できたか?」
「いいえ、距離が遠すぎて、はっきり見えませんでした」
男の目が沈んだ。「わかった」
電話を切った後、男は続けて藤田逸真に電話をかけた。「藤田社長、ある人物を探すのを手伝ってもらえないか」
……