第三百四十八章 本音?それとも大冒険?
「私には心がないと思ってくれていいわ」林薫織は椅子から立ち上がった。手首に痛みを感じたが、それは心の痛みの万分の一にも満たなかった。
ここはもう安らぎの場所ではない。彼女はもうここにいられなかった。
リビングに戻ると、巻島一也の声が聞こえてきた。「薫織、さっきどこに行ってたの?ずっと探してたのよ」
「裏庭を散歩してきたの。食後の運動に」
「うちの裏庭に魅了されたのね。今度あなたが帰ったら、氷川社長にもあなたのために作ってもらったら?」
林薫織は思わずソファに座っている氷川泉を見た。もし彼女と氷川泉の関係が単なる隠れた関係に過ぎないのなら、氷川泉がどうして彼女のためにそこまで心を砕くだろうかと思った。
氷川泉は終始冷静な表情を保ち、少し心ここにあらずといった様子だった。ただ、藤原輝矢がリビングに入ってきた瞬間、その冷静な表情が一気に冷たくなった。木村響子も藤原輝矢が入ってくるのを見ると、彼に数秒視線を向けた後、林薫織に視線を移し、あまり嬉しそうではなかった。