林薫織は当然このような時に嫌われることをしようとは思わず、氷川泉が自分を嫌っているのなら、彼女もここに居座る必要はないと思った。それに、彼女はもともと氷川泉と一緒にいたくなかったのだ。
パソコンと資料を置き、林薫織はゆっくりと身を翻し、書斎のドアへと向かった。彼女が書斎のドアを閉めた瞬間、男性はゆっくりと顔を上げ、その閉まったドアに数秒間視線を留めた後、携帯を取り出して東川秘書に電話をかけた。
「ある人を探してくれ……」
一晩何事もなく過ぎ、翌朝早く、林薫織が起きた時には、氷川泉の姿はすでになかった。暁美さんによると会社に残業に行ったとのことで、林薫織は氷川泉という人物が確かに仕事中毒だと思いながらも、特に気にはしなかった。
出かける時、暁美さんが銀行カードを林薫織に差し出した。「林さん、ご主人様がこのカードをあなたに渡すようにと」