第529章 私はママがいる子供

高橋詩織は病室で薫理と一緒に午前中ずっと遊んでいた。昼近くになると、小さな子はおそらく遊び疲れたのか、彼女の腕の中で眠りについた。

高橋詩織は腕の中でぐっすり眠っている小さな子を見下ろし、半開きの目と少し開いた小さな口、そして口角に垂れた涎を見て、とても愛らしいと思い、思わず微笑んだ。

「高橋さん、ずっとそうやって抱いていると疲れますよ。お嬢さまを私に預けませんか?」

「大丈夫です。彼女はとても軽いので、抱いていても特に疲れません」高橋詩織は微笑んだ。

彼女はむしろ、この小さな子を抱いているのが心地よく、心まで柔らかくなるような気がした。薫理に対して、高橋詩織は心から好意を持っていた。

暁美さんは高橋詩織を見て、それから目を移して病床に横たわる氷川泉を見ると、突然自分が千ワットの大きな電球のように余計な存在に感じられた。

そこで彼女は言い訳を見つけて、気を利かせて病室を後にした。

しばらくの間、病室には高橋詩織、氷川泉、そして既に眠っている薫理の三人だけが残された。氷川泉は重傷を負っているため、ずっと病床に静かに横たわっており、高橋詩織は薫理を抱いたまま、動くことさえできなかった。

どれくらい時間が経ったか分からないが、突然高橋詩織が口を開いた。「氷川泉、あなたは元妻を愛していたの?」

実は、この質問は高橋詩織が思いつきで口にしたものだった。氷川泉がこの娘にこれほど心配しているのなら、子供の母親に少しの感情もないとは、どうしても信じられなかった。

そこで、彼女は自分をずっと悩ませていた質問を口にした。この質問がとてもデリケートなものだと知りながらも、答えを知る必要があると感じていた。

案の定、この質問が出されるや否や、病室内のそれまでの調和的な雰囲気は一瞬で崩れた。病室内の空気は徐々に薄くなり、雰囲気は異常に重苦しくなり、それに続いて息苦しい沈黙が訪れた。

高橋詩織が答えを得られないと思った時、男の低い声が聞こえた。「ああ、愛していた」

男の声は低かったが、一言一句はっきりと高橋詩織の耳に届いた。なぜか、男が自ら認めるのを聞いた時、高橋詩織は嫉妬や怒りを感じるどころか、むしろ長く息をついた。

少なくとも、これは氷川泉が噂されているような冷酷無情な人間ではなく、血の通った人間であることを示していた。