房原城治の長い指がゆっくりと彼女の首に触れ、胸元へと移動した。彼と彼女の距離はあまりにも近く、高橋詩織は男性から漂う独特の香りをはっきりと感じ取ることができ、それが彼女を何故か緊張させた。
彼女は無意識に避けようとしたが、男性のもう一方の手が突然力を込めて彼女の肩を押さえた。「動かないで!」
男性の声は相変わらず冷たかったが、高橋詩織はどこか違うように感じた。どう違うのか、彼女にもうまく説明できなかった。
「できた。」
我に返ると、彼女の肩を押さえていた大きな手はすでに離れていた。高橋詩織が声のする方を見ると、いつの間にか自分の首には輝くダイヤモンドのネックレスがかけられていた。
高橋詩織はすぐに理解した。先ほどの男性の意図は、彼女にネックレスをつけるためだったのだ。
彼女の視線は、その目を奪うようなダイヤモンドのネックレスに数秒間留まった。ダイヤモンドの輝きだけからも、このネックレスがかなり高価なものであることが分かった。
高橋詩織は振り返って後ろの男性を見つめ、冗談めかして言った。「房原さん、これは私への報酬ですか?」
男性の唇の端が突然沈み、瞳の色が冷たくなった。彼女の言葉に少し不快感を覚えたようだった。彼は冷たく口を開いた。「あなたがそう思うなら、そうなんでしょう。」
そう言うと、男性は彼女に構わず、振り返ってデパートの出口へと真っ直ぐ歩いていった。房原城治のこの反応に、高橋詩織はやや驚いた。さっきまで機嫌が良さそうだったのに、今は再び氷山のような表情に戻っている。もしかして、彼女が何か言い間違えたのだろうか?
高橋詩織は一生懸命思い返した。さっき彼女は冗談を言っただけで、他に何も言っていないはずだ。この男は本当に気が小さいのか、冗談も許さないのだろうか?
そう考えると、高橋詩織は少し憂鬱になった。今後は房原城治のような人と冗談を言わないほうがいい。彼を不快にさせれば、怒りに任せて彼女を撃ち殺すかもしれない。
デパートではそれほど長く滞在しなかったものの、パーティー会場に到着したときには少し遅れていた。パーティーはT市の有名なセブンスターホテルで開催され、T市の各界の名士が集まっていた。その中には人気セレブ、業界のエリート、政治家も少なくなかった。