高橋詩織はこちらで頭を抱えていたが、氷川泉の方も楽ではなかった。前回入院して以来、薫理の病状はずっと不安定で、何度も夜中に高熱を出し、そのたびに氷川泉は胸をひきつらせた。
氷川泉は、このままでは解決にならないことをよく理解していた。早急に薫理に適合する骨髄を見つける必要があり、臍帯血は彼らの最後の頼みの綱だった。
ただ、久保和美は林薫織とそっくりの容姿で、DNAも一致しているのに、氷川泉が久保和美と過ごすとき、二人の間に何かが欠けていると常に感じていた。しかし、それが具体的に何なのかは、はっきりと言葉にできなかった。そのため、結婚式が近づいているにもかかわらず、氷川泉は久保和美との関係を最後の一歩まで進めることはなかった。
この日も、氷川泉はいつものように久保和美を建物の下まで送った。久保和美はシートベルトを外し、氷川泉の横顔に目を向けて、唇を動かし、「もう11時過ぎよ。今夜はここに泊まっていかない?」と言った。