高橋詩織はこちらで頭を抱えていたが、氷川泉の方も楽ではなかった。前回入院して以来、薫理の病状はずっと不安定で、何度も夜中に高熱を出し、そのたびに氷川泉は胸をひきつらせた。
氷川泉は、このままでは解決にならないことをよく理解していた。早急に薫理に適合する骨髄を見つける必要があり、臍帯血は彼らの最後の頼みの綱だった。
ただ、久保和美は林薫織とそっくりの容姿で、DNAも一致しているのに、氷川泉が久保和美と過ごすとき、二人の間に何かが欠けていると常に感じていた。しかし、それが具体的に何なのかは、はっきりと言葉にできなかった。そのため、結婚式が近づいているにもかかわらず、氷川泉は久保和美との関係を最後の一歩まで進めることはなかった。
この日も、氷川泉はいつものように久保和美を建物の下まで送った。久保和美はシートベルトを外し、氷川泉の横顔に目を向けて、唇を動かし、「もう11時過ぎよ。今夜はここに泊まっていかない?」と言った。
最初のころ、久保和美は氷川泉という人物に恐れを抱いていた。彼が自分にしてくれる様々な親切に対して、意外にも感じ、少し現実味がないと思っていた。しかし時間が経つにつれ、この男性は冷たく見えるが、自分に対しては細やかな気配りをしてくれることに気づいた。彼女は徐々に彼の周到さと思いやりに慣れ、さらには目の前のこの男性に愛着を感じるようになっていった。
氷川泉に出会う前、彼女にこのように接してくれた男性は一人もいなかった。渡辺浩でさえ、彼女を苦難から救ったとはいえ、それは彼女を利用するためだけだった。氷川泉の自分への様々な優しさに直面し、久保和美は認めざるを得なかった。彼女はすでにこの男性に心を動かされていたのだ。
そして、今夜彼女はついに勇気を出して、自分でも予想していなかった言葉を口にした。しかし、言葉を発した後、彼女は後悔していなかった。彼女は今や彼の婚約者であり、そう遠くない将来、彼と結婚するのだから、彼に泊まるよう頼むことは何も不適切なことではなかった。
久保和美の意図を氷川泉はもちろん理解していた。彼は彼女をじっと見つめ、脳裏に瀬戸麗が以前自分に言った言葉が浮かんだ。しばらく考えた後、結局うなずいた。