第562章 彼は彼女に説明しなければならない!

スキャンダルの波が徐々に収まり、レーマン本社側で高橋詩織に反対していた株主たちも次々と旗を降ろし、すべてが元通りになったかのようだった。しかし、高橋詩織は誰もが予想しなかった行動を取った——レーマンの取締役会に辞表を提出したのだ。

高橋詩織の突然の行動に全員が戸惑った。レーマン本社はすぐに代表を派遣してきた。表向きは支社の業務視察だったが、実際の目的は説得役を務めることだった。

「高橋社長、もう一度お考え直しになりませんか?」本社取締役会の代表が重々しく言った。

「結構です。私はすでに決めました。実は、一年前から辞めたいと思っていました。少し疲れたので、休息を取りたいのです。ジャック、あなたは長年私と一緒に仕事をしてきたので、私の性格をご存知でしょう。一度辞職を決めたら、考えを変えることはありません。本社が私の決断を尊重してくれることを願います。次期CEOの人選については、エールが適任だと思います。彼女はレーマンで長年働いており、レーマンの状況をよく理解しています。物事の処理も非常に手慣れていて、信頼できる人材です。もちろん、これは私個人の意見であり、取締役会にはより適任の人がいるかもしれません。」

ジャックは高橋詩織の態度が固いのを見て、引き留める言葉を口にしなかった。

彼は手を差し出し、高橋詩織に微笑みかけた。「これがあなたの決断なら、もう強要はしません。どのような形であれ、今後も協力できる機会があることを願っています。」

「そう願います。」高橋詩織は笑顔で彼と握手した。

ただ、彼女は生きている限り、もうアメリカとの接点はないだろうと思った。記憶を持ってからの大半の時間をアメリカで過ごしてきたが、どれだけ長くアメリカにいても、そこに帰属感を見出すことはできなかった。

彼女は、自分のルーツは常に日本にあり、この一生日本を離れないと決めていた。

ジャックを見送った後、高橋詩織は中村旭からの電話を受けた。

「本当に決めたの?」

「そうでなければ何?」

「ただ少し惜しいと思っただけだよ。せっかくその地位まで上り詰めたのに。」

「私にとっては、惜しいも何もないわ。得るものがあれば失うものもある。あの地位に座っていることが、必ずしも良いことだとは限らない。見てよ、この数年間、私は青春をレーマンに捧げてきて、今では彼氏すらいないのよ。」