第589章 私はただ旦那様を心配しているだけです

「暁美さん、あなたは仲介役をしているの？」

「私は……ただ旦那様のことを心配しているだけです。この数年間、旦那様はあなたが亡くなったと思い込んで、とても辛い思いをしてきました」

「彼がどう過ごしてきたかは、私には何の関係もない」林薫織は無表情に言った。

「でも……」

「暁美さん、もう彼の話はやめて」林薫織の表情が冷たくなった。

薫理は困惑した顔で暁美さんを見て、それから林薫織を見た。「ママ、お父さんと私のことを話してるの？」

薫理の声に林薫織の表情に少し温かさが戻った。彼女は目を伏せて娘を見た。「ママと暁美さんは大人の話をしているの。あなたはまだ子供だから、わからないわ」

薫理は納得がいかない様子で、「私は藤田二三よりずっと大きいもん。藤田おじさんも私のことをちびっこ大人って言ってるよ。私を見くびらないでね」

薫理が言う藤田おじさんとは藤田逸真のことで、最近藤田逸真は女の子を授かり、自然と娘自慢の仲間入りをしていた。

林薫織は小さな子供に笑みを浮かべ、「そうね、そうね、私たちのちびっこ大人さん。もう遅くなってきたわ、出発しましょう！」

林薫織は薫理を抱きかかえて病室を出た。房原城治は暁美さんから荷物を受け取り、彼らの後ろについていった。

薫理は小さな頭を林薫織の肩に乗せ、彼らの後ろについてくる男性をじっと見つめながら、小さな声で尋ねた。「ママ、あのおじさんは誰？」

「房原おじさんよ、ママの……友達」

「すごく怖そう」薫理は小さな声でつぶやいた。

「怖くないわ、怖くないわ。房原おじさんは見た目があまりよくないだけで、怖そうに見えるけど、実は見かけによらず優しい人なの。私たちの薫理をいじめたりしないわ」

三人は前後して車に乗り込んだ。林薫織はしばらく迷った後、房原城治に言った。「やっぱり私をセンターマンションに送り返してください」

林薫織は突然子供を連れて房原家の邸宅に行くのは、おばあさまに説明しづらいと思った。また、薫理が見知らぬ環境で見知らぬ人に会うと不安になるのではないかとも心配だった。

房原城治は当然林薫織の懸念を理解していて、低い声で言った。「おばあさんには既に状況を説明してある。だから心配する必要はない」