「ママは本当にそう言ったの?」男性は眉をひそめて尋ねた。
「パパ、私が行くのを嫌がってるの?もし嫌なら、私...明日ママに言うわ、行かないって」
「そんなことないよ、お馬鹿さん」男性は愛情を込めて小さな子の鼻をつついた。「ママが我が家の小さなお姫様を連れて遊びに行くのに、パパがどうして嫌がるはずがあるかな?」
「じゃあパパも一緒に来る?」
「パパは会社で処理しなきゃいけないことがあるから、一緒には行けないんだ」
「やっぱりママの言った通りだね」薫理は小さな唇を尖らせて、不満そうに言った。
氷川泉は薫理が失望した様子を見て、心に苦さを感じた。彼だって家族みんなで一緒に楽しい時間を過ごしたいと思っているが、林薫織が彼に会いたがらないことをよく分かっていた。
家族全員が和気あいあいと集まるなんて、ただの遠い夢に過ぎなかった。
林薫織が言った通り、薫理の誕生日に、彼女は再びセイント病院を訪れた。
今回は彼女一人ではなく、房原城治も一緒にセイント病院へ来ていた。
房原城治はセイント病院の正門を一瞥し、眉をひそめて言った。「君が僕を連れてきたのは、人さらいの手伝いをさせるためじゃないだろうな」
「その通り、見事に当たったわね」林薫織は氷川泉とばったり会うことがないとは保証できなかった。
前回のような事態を避けるため、彼女は房原城治を護衛として連れてくることにした。房原城治の身体能力は林薫織も目の当たりにしたことがあり、数人のボディガードを相手にしても問題ないはずだった。
房原城治の不機嫌そうな表情を見て、林薫織は少し不安になった。「もし手伝いたくないなら、私一人で行くわ。無理強いはしないから」
「せっかく来たんだから、上がってもいいさ」男性は淡々と言った。
二人は車を降りて入院棟に向かい、病室の前に着いたとき、房原城治は中に入らず、林薫織に言った。「ここで待っているよ。何か問題があったら、呼んでくれればいい」
「わかった」
そう言って、林薫織は中に入った。
林薫織が病室に入ると、氷川泉はやはりいなかった。病室には暁美さんと薫理の二人だけだった。
林薫織を見た薫理は両腕を広げて抱っこをせがんだ。林薫織は笑顔で彼女を抱きしめ、「お姫様、準備はできた?出発するわよ!」
そう言いながら、彼女は薫理をベッドから抱き上げ、ドアの方へ歩き始めた。