「あなたは社長との婚約を解消したの?」
松本一郎は驚きを隠せなかった。なるほど、この数日間社長の機嫌が非常に悪かったわけだ。昨日も大黒に殺し屋の処理を命じたが、あの惨たらしい光景を思い出すと、松本一郎は今でも背筋が寒くなる。
しかし、あと二日で結婚式だというのに、今まで彼らの婚約解消の知らせは聞いていなかった。一体何が起きたのだろう?
松本一郎は様々な思いを巡らせながら、重々しく口を開いた。「何があったんだ?二人はうまくいってたのに、どうして婚約を解消することになったんだ?」
「具体的な理由は複雑で説明しづらいわ。ただ彼が私を助けてくれるかどうか知りたいだけ」
「それは……」
松本一郎は何と答えていいか分からなかった。答えは明白だった。もし婚約が解消されていなければ、社長は彼女を助けただろう。しかし今となっては、彼女の頼みを聞き入れる可能性はほぼゼロだった。
「わかったわ」林薫織は突然、自分の質問がいかに愚かだったかを悟った。
彼女は暗然と目を伏せ、長い沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。「彼がどこにいるか知ってる?」
彼女は謝罪の電話をかけたが、彼は出なかった。メッセージにも返信がなかった。
彼は彼女を心底憎んでいるのだろう。
「高橋詩織、彼に会いに行くつもりなのか?」
「ええ」
「でも……」
「彼が私を助けてくれないことはわかってる。でも土下座してでも頼むつもりよ」
薫理は彼女の唯一の娘だ。彼女が死ぬのを黙って見ているわけにはいかない。わずかな望みでも、決して諦めるつもりはなかった。
「わかった。後で社長の居場所を送るよ」
一分後、林薫織は房原城治の居場所を受け取った。
出かける前に、彼女は暁美さんに一言伝えた。「ちょっと出かけてくるわ。薫理を頼むね。すぐ戻るから」
「はい、林さん。お嬢様をしっかりお守りします」
氷川泉が病室に戻ると、林薫織がいないことに気づき、暁美さんに尋ねた。「林さんはどこだ?」
「出かけられました。用事があるとおっしゃっていました」
「どこに行くとは言わなかったか?」
「いいえ」暁美さんは首を振った。
氷川泉は眉をひそめた。ここ数日、林薫織はほとんど一歩も離れず薫理の側にいた。よほど重要な用事でなければ、この時に離れることはないはずだ。一体何の用事で出かけたのだろうか?
……