二つの山あいに浮かぶ空は凍りついているかのようだった。風はなく、鳥の鳴き声もない。ただ、待ち構えるような静寂だけが広がっていた――まるでこの場所は眠っているのではなく、目覚めを待ち続けているかのように。
ダニエルと一行は、苔と時のひび割れに覆われたほぼ崩れ落ちた石の門の前に立っていた。巨大な羽と角、多数の目をもつ生き物の彫像が、まるで古の世界の監視者のように門を挟むようにそびえていた。その目は空虚でありながら、見張っている。
「これはただの遺跡ではないわ」とリラエルが囁くように言った。「これはかつて最初のエリヤリたちが、ある力が均衡にふさわしいか、歴史から削除されるべきかを試す場所――アエヴァン・サル、沈黙の審判なの。」
ダニエルは薄暗い遺構の奥を見つめた。まるで世界の腹部を見つめるかのような深淵がそこにあった。何かがその奥から微かにうなずいている気がした――あるいはそれは、自身の思考の反響にすぎなかったかもしれない。
レンネが後ろで震えた。「ここに入って...本当に安全なの?」
リラエルは答えず、ただ先へ進み、古の言葉を石壁に触れながらひそひそと唱えた。遺構がかすかに震え、青い光が石の裂け目から浮かび上がり、幾何学模様を描き出す。門が開く――闇ではなく、異質の光が彼らを待っていた。
彼らは中へ入った。
沈黙の審判の主室は広くはなかったが、果てしなさを感じさせた。まるでその奇妙なパラドックスが思考を攪乱する。天井は大聖堂のように高く、だがその影は穴のように押しつぶしてくる。壁には、曲がり、裂け、再び融合し、崩壊するようなエセリオンのシンボルがびっしりと刻まれており、それらは決して終わらない循環を描いていた。
中央には、淡く呼吸するかのように光を放つ水晶の祭壇があった。
ダニエルは見えない力に引かれるように、そっと歩み寄る。彼の足がエセリオンが螺旋を描く床に触れた瞬間、世界が変わった。
彼はもはやそこにはいなかった。
そこは星々の広がる無限の宇宙だった。しかしそのすべての星が崩壊しつつあった。
彼はその中にいた――重さを感じながら宙に浮いて。周囲に言語ではない響きが響いていたが、それは直接彼の魂に意味を流し込んでいた。
「均衡とは平和ではない。限界なのだ」
「限界を超えた者は、創造も破滅も呼び込む」
遠くに、概念から形を帯びた巨大な化身たちが見えた。一つは純粋な光、その隣には星を反射する闇が立っていた。
そして彼は自分自身をそこに見た。だがその身体は砕け始めていた。裂け目から光と闇が生じ、エセリオンは外からではなく内から流れ出していた。不安定で、均衡を失った存在――まさに行き止まりの道。
最後の言葉は、まだ来ていない未来からの反響だった:
「彼が生きれば、均衡は変わる。彼が死ねば、希望も消える」
ダニエルは勢いよく祭壇へと叩きつけられた。世界が揺れた。息は乱れ、冷たい部屋の中で汗が滲んでいた。
リラエルがそばに立っていた。彼女の表情は変わらなかったが、その瞳には、今や...恐怖が浮かんでいた。
「あなただったのね、見たのは?」彼女がかすれた声で問う。
「ずっと――失われていた何かを」とダニエルが囁いた。「そして、いつか帰ってくる何かを」
リラエルは黙った。部屋に祭壇の周囲で呼吸するような微かな音だけが響いている。
遠くの闇から、エファリオンが低く唸った。「お前は“ゼロ・ポイントの視界”を見たのだ」
リラエルは鋭く振り向く。「そんな…あり得ないわ。あのビジョンはただあの…」
「運命の線を越えた者だけが見るものだ」と冷ややかにエファリオンが言い切った。「そして彼はそれを目撃した」
レンネは恐れ混じりにダニエルを見つめた。「それはどういうこと?ダニエル、何が起きてるの?」
ダニエルは手を見る――その手が今、激しく震えていた。皮膚の下でエセリオンがまるで電流のようにうごめいていた。「もう普通の人間じゃない。でもまだ別の何かでもない。あの神殿で繋がってから――リナの時も、赤ん坊のことも…」
彼は首を振った。赤ん坊の声が再び耳元に響く――人間でも悪魔でもない、名前もない存在の泣き声。
リラエルは目を閉じ、長く息を吸った。
「今、あなたに正直に言うわ」と彼女が穏やかに言った。「バランスの秩序――私を送った組織はあなたを味方とは見なしていない。脅威と見ている。私の任務は…あなたが管理可能かどうかを試すこと。もしそうでなければ…」
彼女は言葉を濁す。
「殺す、ってこと?」ダニエルが苦い声で言い放つ。
リラエルは重そうに頷いた。「ええ」
再び静寂が支配した。しかし今度の沈黙は平和のものではない。嵐の前触れのような、圧迫感をもつ静けさだった。
「でも...私にはできない」とリラエルは続けた。「あなたの瞳を見たとき、ヴィジョンを見たときの混沌の中で、あなたは“支配”ではなく“真実”を求めていた。それは…稀なことよ」
エファリオンが鼻を鳴らした。「稀はしばしば危険を意味する」
ダニエルはまだ揺れる足で立ち上がる。「血で均衡をもたらすつもりはない。でも、今のバランスが一つの種族を抑圧しているなら...それを変える時かもしれない」
その言葉が響くと、エセリオンの祭壇が微かに震え、結晶から悲しげなマイナーの調が響いた。
リラエルは細めた目をさらに細めて見つめた。「あなたが見たビジョンは確定ではない。未来は書き直せる。だがそれは、あなた自身の内に育つものを制御できれば...の話」
ダニエルはゆっくりと頷く。「なら教えてくれ。あなたの手先ではなく、ただ“真実を知りたい”人間として」
リラエルは彼を長く見つめてから、そっと祭壇に触れた。周囲の青いシンボルが円を描いて輝き始める。
「それなら…沈黙の審判はあなたを“存続に値する”と認めたわ」
しかし遙か遺構の外側で...何かが動いた。
エリヤリでも、ドラケンでもない影。長くそこにあって、誰かが祭壇を開くのを待っていた存在だった。
そして、それは今動き出していた。