昼食を済ませると、遠山陽介は用事があるといって先に帰った。
夏目初美はようやく笑顔で工藤希耀に言った。「陽介さんは本当にいい人ね。一生付き合っていける価値のある人だわ。私と瑞穂みたいに、この人生でお互いに出会えたのは、幸運なことよ」
工藤希耀は頷いた。「俺と陽介は十代の頃から知り合いなんだ。最も苦しい時期に、お互いがいなかったら、きっと乗り越えられなかった。彼は本当に素晴らしい奴だ。おしゃべりに見えるけど、実は誰よりも頼りになる。これから時間が経てば、君もわかるよ」
夏目初美は笑った。「時間なんていらないわ。今でももう分かってるもの」
工藤希耀は眉を上げた。「本当に?『道のりが遠くなければ馬の力は分からず、長い時間が経たなければ人の心は見えない』って言うけど、それを待たずに結論を出すの?」
夏目初美は思わず笑った。「もちろん確かよ。私だって時々目が利かないことはあるけど、ほとんどの場合は大丈夫なの。そうでなければ、あの日、あんなに崩壊した状況で、一目であなたのような頼りになる友達を選べたはずないでしょ?」
話している最中に、工藤希耀の電話が鳴った。
彼は少し離れて電話を終えると、申し訳なさそうに夏目初美に言った。「本当は午後、テニスをしたり、二時間ほどサイクリングに誘おうと思っていたんだ。でも今、急な用事ができた。年配の方が病気になって、お見舞いに行かなければならないんだ。ごめんね」
夏目初美は急いで言った。「大丈夫よ、年配の方のお見舞いが先よ。それに私も予定があるの。瑞穂とヨガをする約束だから、また今度ね。これからチャンスはたくさんあるわ」
工藤希耀はそれ以上何も言わず、部屋に戻って着替えた。
彼は少し嬉しかった。夏目初美がようやく彼を友達として、それも頼りになる友達として見てくれたことが。彼女の心の中で、彼らの関係が大きく前進したことは明らかだった。
しかし、少し失望もしていた。「友達」は「私の夫」と比べると、まだまだ遠く及ばない。たとえ「私の夫」という名に実態が伴っていなくても。
でも、その日はいつか必ず来る!
工藤希耀が出かけた後、夏目初美は大江瑞穂に電話をかけた。
大江瑞穂の声は沈んでいて、泣いた後のようだった。「もしもし、初美、帰ってきたの?」