第97章 キスしてもいいですか

ホテルのレストランで夕食を済ませた後、夏目初美と工藤希耀は再び部屋に戻った。

初美はようやく部屋の中を見回した。

スイートルームの二つの寝室にはそれぞれバスルームが付いており、外も静かだったので、密かに頷いた。今夜はきっとぐっすり眠れるだろう。

希耀は彼女が小さい方の寝室から出てくるのを待って、笑いながら言った。「初美、やっぱり君は大きい方の寝室を使って。僕は小さい方で十分だから」

本当は彼はもっと...咳、二人で大きい寝室を使いたかったが、今はまだ急ぐべきではなかった。

初美は手を振って、「いいえ、私は小さい方で十分よ。それに小さいといっても十分広いし、とても良いわ。今の町のホテルがこんなに良い条件だなんて思わなかった。本当に大きく変わったわね」

少し間を置いて、「あの、明日お母さんのお墓参りに行くなら、何か準備しておくものはある?もし手伝えることがあれば、遠慮なく言ってね。私はこういうことはよく分からないけど、買い物に行ったりするくらいなら問題ないわ」

希耀は表情を暗くして、首を振った。「特に準備するものはないよ。母は花が好きだったから、明日新鮮な花束を持っていくだけで十分だ。お墓と言っても実は衣冠塚で、当時彼女は...遺体が見つからなかった。唯一確かなのは、誰かが彼女が飛び込むのを目撃したことと、後に監視カメラの映像を調べて、確かに彼女だと確認されたことだけだ」

「でもあの辺りは水流が急で、当時は誰も救助に行く勇気がなかった。後で専門の救助隊が到着した時には、もう手遅れだった。それに、誰も本気で彼女を見つけようとしなかった...だから私が後に戻ってきて、彼女のために衣冠塚を建てることしかできなかった。彼女が戻ってきて、落葉帰根できることを願って」

初美はそれを聞いて涙が出そうになった。母子二人はどうしてこんなにも苦しい思いをしたのだろう?

聞いているだけで息苦しくなった。当時、母親が息子の命を救うチャンスと引き換えに、どうやって決心をつけたのか、自分の命を犠牲にして、息子と永遠に別れることを。

そして息子が真実を知った時、どれほど後悔し、生きる気力を失ったことか。

本当に想像したくもなかった。