第119章 悪意を抱く

太田一鳴も去った後、遠山陽介は工藤希耀と夏目初美が黙っているのを見た。

仕方なく気まずく笑って、「あの、耀兄さん、美咲の言葉は明らかに怒りからのものだから、気にしないでください。奥さんも同じく、彼女と争わないでください。彼女はただ一時的に受け入れられないだけで、時間が経って奥さんのことをもっと知るようになれば、きっと良くなりますよ。」

夏目初美が先に頷いた。「うん、気にしないわ。彼女に悪意がないことはわかってるから。それに工藤先代社長の恩もあるし、許せると思う。」

工藤希耀も続けて深刻な声で言った。「彼女の言葉が怒りからのものだとわかっていても、心の中ではとても不快だ。愛が深いからこそ厳しくなる。彼女はいつになったら私の苦心を理解してくれるんだろう?一鳴があんなに良い人で、いつも彼女の目の前にいるのに、どうして彼女には見えないんだ?」

遠山陽介はため息をついた。「おそらく一鳴の良さが彼女にとって簡単に手に入りすぎたから、大切にしようと思ったことがないのかもしれません。まあ、もうこの話はやめましょう。耀兄さんと奥さんはまだキスしてませんよね。キスをして初めてプロポーズの儀式が完成するんです。そうでしょう、大江さん?」

大江瑞穂は夏目初美の友人の立場から、先ほどの工藤美咲の言葉と態度に本当に不快感を覚えていた。

工藤希耀に対しても不満を抑えられなかった。

妹が過激な言動をすることを知っていたなら、なぜ彼女をこの食事に招き、いわゆる証人にしたのか?

彼女に諦めさせるためだとしても、別の時に、別の方法でできなかったのか?

しかし夏目初美が「許せる」と言った以上、彼女もこれ以上言うべきではなかった。

そこで笑いながら遠山陽介に同調した。「そうよね、まだキスしてないわね。さっさとして、終わったら私は帰らなきゃ。新しい案件のために残業しないといけないの。」

工藤希耀は気持ちを切り替え、夏目初美にキスしようとした。「初美、続けようか?」

しかし夏目初美は可愛らしく顔をそらした。「彼らの前でなんてしたくないわ。目の毒になるから。彼らが帰ったら、ゆっくりたっぷりキスしましょう。」

大江瑞穂は鼻で笑った。「見せてくれなくていいわよ、私たちが見たいと思ってるとでも?」

工藤希耀と遠山陽介も笑った。