夏目初美は高橋が無事だと聞いて、安心した。
自分のバッグと荷物を確認しながら、遠山陽介に何か食べたいものがあるか尋ねた。「……耀兄さんが空腹でないわけないでしょう。こんなに大変な思いをして戻ってきたんだから。本当に機内食を食べたとしても、もう空腹のはずよ。それに、あの状況でどうやって食事なんてとれたの?」
「さっき希耀に頼んだステーキ、美味しかったわ。耀兄さんにも一つ注文しましょうか?……もう遠慮しないで。遠慮したら怒るわよ」
工藤希耀も言った。「そうだよ、陽介。僕たち三人だけで、他に誰もいないんだ。何を遠慮することがある?今日は本当に君のおかげだよ」
陽介は手を振った。「耀兄さん、そんなこと言わないでください。自分の鈍さがまだ悔やまれます。幸い、あなたと初美は無事でした。これからしばらくは岡山市に戻るつもりはありません。木下沢にそちらを任せて、必要ならビデオ会議やオンラインで仕事をします」
この不愉快なトラブルが完全に終わるまで、彼は耀兄さんから離れるつもりはなかった。
何があっても、彼は耀兄さんと共に立ち向かわなければならない!
希耀はしばらく考えてから言った。「陽介、僕のそばにいる必要はないよ。僕は対処できる。それに今日のことがあった後、彼らもこれ以上無茶はしないだろう。君は自分の仕事に戻るべきだ。今年の株主たちの年末配当は、君の岡山市のプロジェクトにかかっているんだから!」
しかし陽介は譲らなかった。「もう決めたことです。岡山市のプロジェクトの進行に影響はないと確信しています。耀兄さん、実は戻った時、あの厚かましい二人には会いませんでしたが、いくつか話を聞きました」
「私たちが出て行った直後、二人は手を出し始めたようです。母親の方が特に激しく、父親の顔を引っ掻いて、髪の毛も引き抜いて、ずっと泣きながら『諦めない』と叫んでいたそうです。『母親として子供のためなら、何でもする』とか」
「これからもまだ面倒を起こすと思います。耀兄さん、私をここに残してください。何かの役に立てるはずです」
初美は眉をひそめて聞いていた。「耀兄さん、西園寺夫人は本当にそう言ったの?それなら、まだ騒ぎを起こすつもりね。なんて面倒な人なの!」